2015/05/13

【研究紹介35】嘘つき、嘘つき、頭に火がつくぞ!:児童期の言語的な欺瞞におけるワーキング・メモリーの役割の検討(Journal of Experimental Child Psychology, 2015)

Abstract(ざっくり和訳)
本研究の目的は、児童期の言語的な欺瞞におけるワーキング・メモリーの役割を検討することである。この研究では、6歳から7歳の子どもに誘惑に抵抗するパラダイム実験を実施した。この実験では、子どもはカードを使用したクイズゲームを行い、通常の知識では解けない最後の問題でカードの裏に書いてある回答をこっそり見るチャンスが与えられていた。言語的、視空間的なワーキング・メモリーの両方を測定し、それぞれの影響を検討した。嘘をうまくつけなかった子どもよりも、嘘をうまくつけた子供は、言語的ワーキング・メモリー課題の処理と再生の両方の成績が良かった。しかしながら、嘘をうまくつけた子供とつけなかった子どもの視空間的なワーキング・メモリーの成績には差が見られなかった。これらの結果は、言語的なワーキング・メモリーが嘘をつく行為に含まれる複数の情報の処理と操作の役割を担っていることを示唆している。

●文献情報
Alloway, T. P., McCallum, F., Alloway, R. G., & Hoicka, E. (2015). Liar, liar, working memory on fire: Investigation the role of working memory in childhood verbal deception. Journal of Experimental Child Psychology, 137, pp.30-38.

以下、ざっくり内容紹介。

  • 子どもの嘘をつく能力と、ワーキング・メモリーの関連性について検討した研究です。意外ですが、嘘の研究の中でワーキング・メモリーとの関連性について検討した研究は少ないそうです。少ない中でも発達心理学の分野と脳科学の分野で研究されています。
  • 嘘をつくときの認知メカニズムについてワーキング・メモリーを含めてモデル化している研究もあります。ADCM(Activation-Decision-Construction-Model)といった情報処理モデルです。こちらの研究は認知心理学や虚偽検出研究でよく引用されています。個人的には単純で分かりやすく良いモデルだと思います。






  • これまでの先行研究ではワーキング・メモリー課題の成績と子供の嘘をつく能力に関連があるといった研究と、関連がないといった研究があり、知見が一致していませんでした。この研究では、先行研究で使用されていたワーキング・メモリー課題が、言語的ワーキング・メモリーを測定しているものと、視空間的ワーキング・メモリーを測定しているものであったことが原因だと考え、両方のワーキング・メモリー能力と嘘をつく能力の関係性を検討しています。著者たちは言語的ワーキング・メモリーと嘘をつく能力と関連するが、視空間的ワーキング・メモリーは関連しないと考えていました。
  • 課題は子どもの嘘の研究でよく用いられる誘惑に抵抗するパラダイムでした。有名なのは魅力的なおもちゃ課題です。実験室に子どもが魅力的に感じるおもちゃを置いておき、実験者が立ち去る前におもちゃを見ないように教示し、実験者が帰ってきた後におもちゃを見たかどうかを質問する課題です。下記の研究紹介でもこの課題が使用されています。






  • 今回の研究では、子どもに簡単なクイズを回答させています。クイズはカードに書かれてあり、4つの選択肢の中から選ぶ形式になっていました。カードの裏には、そのクイズの回答が書かれています。最初の2問は簡単に回答できますが、最後の3問目は絶対答えられない問題になっていました。実験者は3問目の問題を出した後に、いったん部屋から出て行きますが、そのときにカードの裏の回答を見ないように教示していきます。
  • 実験の結果、24.5%の子どもしかカードの裏の回答を盗み見ませんでした。また、盗み見る行為には言語的、視空間的ワーキング・メモリー能力に関連性が見られていません。と他の先行研究では約70%の子どもが盗み見ていたので、この少なさについて文化差の影響があるかもと考察していました。今回の課題は盗み見る行為がカンニングになってしまうので、割合が低下したのではと個人的に考えています。
  • ワーキング・メモリーとの関連ですが、著者達の仮説や先行研究のとおり、嘘をうまくつけない子どもよりも、嘘をうまくつける子どもの言語的なワーキング・メモリー能力は高くなっていました。しかし、視空間的ワーキング・メモリーには違いが見られませんでした。
  • このような結果から、言語的なワーキング・メモリーは嘘をつくときの情報処理に関連しており、嘘をつくかどうかを判断することには関連していないことを主張しています。
  • この論文のタイトルは“Liar, liar, working memory on fire”ですが、これは“Liar, liar, pants on fire”をもじったものだと思われます。後者は子どもが誰かから嘘を言われたときに“嘘つき!”といったような意味で使われるそうです。意訳すると“嘘つき、嘘つき、お尻に火がつくぞ”みたいな感じでしょうか。“嘘つきは泥棒のはじまり”と似たような感じで使用されているのかもしれません。