2014/08/27

【研究紹介21】誠実になるためには時間(と正当化できない状況)が必要(Psychological Science,2012)

Abstract(ざっくり和訳)
多くの先行研究では、嘘をつきたくなる状況で嘘をつかないためには自己制御資源が必要になることから、人は自己利益を獲得しようとする傾向が初期設定になっている可能性が示されている。しかしながら、他の研究では、自分の非倫理的な行動を正当化できる範囲でしか嘘をつかない可能性が示されている。これらの研究結果を統合するため、直感的認知システムと熟慮的認知システムを区別した2元システム理論に基づいた研究を行った。本研究では、不誠実な行動を控えようとしている人には、“落ち着いて考えるのに十分な時間”と“利己的で非倫理的な行動を正当化できない状況”が必要になるといった仮説を設定した。参加者は、一人で報酬を決めるためのサイコロを振る“カップを用いたサイコロ振り課題”を行った。実験では、参加者がサイコロの目を報告する時間(短い条件・時間制限なし条件)を操作した。その結果、自己利益を追求する自動的な傾向は、考える時間が十分にあり、嘘をつくための個人的な正当化ができない場合には嘘をつかなくなっていた。

●文献情報
Shalvi, S., Eldar, O., & Bereby-Meyer, Y. (2012). Honesty requires time (and lack of justification). Psychological Science, 23(10), pp.1264-1270.

以下、ざっくり内容紹介


  • 嘘をつかないためには自己制御資源が必要であるといった多くの先行研究から、人は基本的には自己利益を追求してしまう傾向があることを想定した研究です。
  • つまり、嘘をつきたくなる状況でタイムプレッシャーがある場合には、人は嘘をつくやすくなるだろうといった仮説を立て研究を進めています。
  • また、著者達の先行研究では、嘘をつく行為を自分で正当化できる状況の場合、人は嘘をつきやすくなることが示されています。


  • 具体的には自分しかサイコロの目を知りえない状況で、3回振った後に“最初の目の結果のみ”を報告するときと、1回だけ振った後に報告するときでは、後者の方が嘘をつきにくいことが示されています。3回振った場合には最初よりも望ましい結果がでる可能性があり、その場合は嘘をつくための正当化が行えるという仮説を検証しています。
  • 実験は上記のサイコロ振り課題を用いて、タイムプレッシャー条件(あり・なし)を設けています。あり条件では3回振った結果を20秒以内に報告、なし条件では時間制限がありませんでした。
  • 実験1は正当化ができる状況(3回振って最初の目だけ報告)が設定されていました。実験の結果は下記の図の通りです。タイムプレッシャー条件によらず、サイコロの目の分布には偏りが見られ、低い目よりも高い目を報告する人が多くなっていました。つまり、確率論的に考えると嘘をついていたことが示唆されます。
図1 実験1の結果
※数値は論文からの目測なので正確ではありません。
  • 実験2は正当化ができない状況(1回だけ振る)が設定されていました。実験の結果は下記の図の通りです。タイムプレッシャーなし条件では分布に偏りは見られませんでしたが、タイムプレッシャーあり条件では分布に偏りが見られ、低い目より高い目を報告する人が多くなっていました。
図2 実験2の結果
※数値は論文からの目測なので正確ではありません。
  • また、両実験で感情も測定していましたが、実験2においてのみサイコロの目を高く報告した人ほど、ネガティブ感情が高くなっていました。著者たちは、嘘が正当化できないと嘘をつくときのネガティブ感情が高くなる可能性を主張しています。
  • 以上の結果から、人は利益を得るために嘘をつきたくなる状況では嘘をつくことが初期設定ですが、十分に考える時間があれば、嘘をつかずに誠実に対応できることが示唆されました。
  • 最近の自発的に嘘をつかせる課題は、実際に嘘をついていたかを問題にせずに、確率論的に嘘が生じていたことを想定するものが多いようです。倫理的な問題があると思いますが、実際に嘘をついていたかの確認が取れた方がいいのかなと思いました。

2014/08/22

【研究紹介20】午前中はたいていの人が善良である:時刻が非道徳的行動に与える影響(Psychological Science, 2013)

Abstract(ざっくり和訳)
人は午後より午前中の方が善良だろうか?この問の答えを得るために本研究では、普段の日常的な活動が自己制御資源を消耗させるといった仮説を設定し、4つの実験を行った。その結果、午後より午前中に実験者を欺くことが可能な課題を行った場合、アメリカの大学生と一般成人は嘘をつかなかった。また、この午前中の規範遵守効果(morning morality effect)には、自己制御資源が消耗することで道徳的規範意識が気づかないうちに低下し、嘘をつくようになるといった部分媒介モデルが成立することが示された。さらに、午前中の規範遵守効果は、道徳意識の高い普段は善良な人に対して強い影響を持っていた。つまり、道徳意識の高い人は午前中よりも午後に嘘をつくようになっていた。道徳意識の低い人には、この効果の影響が見られなかった。したがって、時刻といったありふれた要因が道徳的規範を遵守する行動に対して重要な意義を持つことが示された。

●文献情報
Kouchaki, M., & Smith, I. H. (in press). The morning morality effects: The influence of time of day on unethical behavior. Psychological Science


以下、ざっくり内容紹介(少し長いので興味がある方はご覧ください)。


  • 自己制御資源は有限であり、消耗した場合にはゆっくり休む、寝るなどしないと回復しないといった自己制御資源の耐久力モデル(strength model of self-regulation)の考えに基づいた研究です。



  • 通常このモデルは自己制御資源を消耗する特定の要因(認知課題、睡眠不足など)を想定していますが、この研究では朝起きてから寝るまでに普通に生活するだけでも、自己制御資源は消耗することを想定した研究です。
  • 確かに、朝起きてから寝るまでに様々な認知活動、意思決定をしているので自己制御資源は消耗しているはずですね。実際に単純な意思決定でも自己制御資源が消費されることが先行研究で示されています。



  • この研究では、朝は自己制御資源が豊富なので非倫理的な行動をとりにくいが、午後になると資源が消耗してくるので非倫理的な行動を取りやすくなることを仮説にして4つの実験を行っています。実験1と2は大学生が対象で、実験3と4は一般成人が対象です。また実験3と4はWeb上で実施されています。
  • また、この朝は道徳的な行動を取りやすい効果(the morning morality effect)には、道徳からの解放(moral disengagement)が影響を与えることを想定しています。道徳からの解放は、Bandura先生が提唱している概念です。非道徳的な行動を「そんなに非道徳的ではない」と認知を歪めることで罪悪感などのネガティブ感情が生起しにくくなり、実際に非道徳的な行動をとる傾向を示します。
  • 実験1から4では、実験者に気づかれるリスクを負うことなく嘘をつくことが可能な課題が設定されていました。その結果、一貫して午前よりも午後に嘘をつくことが示されました。
  • また、実験2の結果から日常生活による自己制御資源の消耗は、無意識的な道徳に対する気づきを低下させ、その結果として嘘をつくようになるといった間接効果が得られています(ただし、部分媒介モデル)。
  • さらに、実験4の結果から、朝は道徳的な行動を取りやすい効果と、道徳からの解放の個人差には交互作用が見られ、道徳から解放されていない人(つまり、道徳が高い人)は、午前中は道徳的な行動をとることができるが、午後になると道徳から解放されている人(つまり、道徳が低い人)と同程度に非道徳的な行動をとるようになっていました。
  • 非道徳的な行動をとる人は、午前も午後も同じくらい非道徳的な行動をとっていました…。図にすると下記のような感じです。
※数値は目測したので正確ではありません。
  • この研究のポイントは普段は善良な人の方が、道徳的な行動に対して時刻の影響を強く受けてしまうということです。しかも、厄介なのは本人がこの効果を意識していないことでしょう。
  • 今回の研究から、誠実な人から本当のことを言ってもらいたいときは、午後よりも午前中に話を聞くのが良いと考えられます。


2014/08/19

【研究紹介19】小さな嘘つき:子どもの言語的な嘘の発達(Child Development Perspective, 2013)

Abstract(ざっくり和訳)
大人にとって嘘をつくことは日常的な行為であるが、子供にとってはより複雑な問題である。本論文では、発話行為理論(speech act theory)の観点から子ども嘘について過去20年分の実証研究についてレビューを行った。その結果、幼稚園くらいから子どもは利己的な嘘や利他的な嘘をつきはじめ、年齢の増加や嘘のタイプによって嘘をつく傾向が変化することが報告されていた。また、他者に嘘をつき続ける能力は年齢が上がるにつれて高まっていた。本論文では、心の理論と社会的慣習の理解が子どもの嘘の発達に非常に重要な役割を果たしていることを強調している。また、子供の言語的な嘘の典型的、非典型的な発達過程を理解するための良い枠組みを提案した。

【Togetterによる簡単な研究紹介はこちら

●文献情報
Lee, K. (2013). Little liars: Development of verbal deception in children. Child Development Perspective, 7(2), pp.91-96


【研究紹介18】オキシトシンの投与は社会的嘘の検出を阻害する(Psychological Science, 2014)

Abstract(ざっくり和訳)
仲間の形成、交渉や駆け引きなどの社会的やり取りには、非協力的な意図を隠蔽し、検出する能力が必要になる。しかしながら、これまで嘘を見抜く基盤となる心理生物学的要因はあまり検討されてこなかった。本研究では、社会的ジレンマゲームのテレビ番組内で示された本当と嘘の協力意図を判別する能力における社会的認知や行動に影響を与える神経ペプチドの一つであるオキシトシンの役割について検討を行った。その結果、参加者は嘘つきと協力者を正確に区別することが可能であり、オキシトシンの投与によってこの正確性が低下することが示された。社会的警戒能力が低下することによって、この正確性が低下している可能性について議論した。本研究の結果は他者の意図を理解するためのツールとしてのオキシトシンの投与に注意を呼びかけるものであり、他者から嘘をつかれる可能性のある社会生活における投与に特に注意が必要となる。

【Togetterによる簡単な研究紹介はこちら

●文献情報
Israel, S., Hart, E., & Winter, E. (2014). Oxytocin decrease accuracy in the perception of social deception. Psychological Science, 25, pp.293-295.(abstractのみ)


【研究紹介17】女性は見知らぬ男性の顔から浮気のしやすさを判断できる(Biology Letters, 2013)

Abstract(ざっくり和訳)
人は日常的に他者の表情から印象を形成し、これらの印象が実際の行動や性格などを反映していることがある。対人関係において他者の信頼性の印象は重要なものであるが、その正確性に関しては一定の知見が得られていない。本研究では、性的な信頼性(浮気をしないか)を、見しらぬ人の顔から判断できるかについて検討した。これらの判断において、男性は女性の写真、女性は男性の写真を評価した。女性の男性に対する性的な不誠実さの評価は、見知らぬ男性の過去の不誠実さ(浮気、経験回数)と小から中程度の相関が見られた。女性は男性らしさを不誠実さの妥当な手がかりとして使用していた。男性の不誠実さの評価は、見知らぬ女性の過去の浮気と少しだけ相関し、経験回数とは無相関であった。また、男性よりも女性は、不誠実な見知らぬ男性を、誤って誠実な人と分類することが少なかった。女性の判断のみにおいて、見知らぬ他者の顔から形成された性的な信頼性は実際の行動をある程度反映していたことから、行動を伴わない情報も潜在的なパートナーを判断するための有益な情報として利用されている可能性が示された。

【Togetterによる簡単な研究紹介はこちら

●文献情報
Rhodes, G., Morley, G., & Simmons, L. W. (2013). Women can judge sexual unfaithfulness from unfamiliar men's face. Biology Letters, 9(1), pp.1-6.


2014/08/18

【研究紹介16】左側の顔は信頼できない:信頼性と感情表出における半顔の非対称性(Brain and Cognition, 2014)

Abstract(ざっくり和訳)
先行知見において、人間は他者の外見によって協力者から嘘つきを区別できることが報告されている。しかしながら、協力者よりも感情強度を高く表出した嘘つきの笑顔によって、この弁別能力が阻害されることが示された(Okubo, Kobayashi, & Ichikawa, 2012)。本研究では、反社会的態度を隠蔽するための笑顔の神経的、認知的メカニズムの基盤を、感情表出における半顔の非対称性の観点から検討した。参加者(女性50人・男性50人)は、経済ゲームの結果から操作的に定義された協力者と嘘つきの合成顔について信頼性を評価した。表情が笑顔の場合、嘘つきの右―右の合成顔よりも、左―左の合成顔は信頼性が高く評価された。この笑顔における左の半顔の優位性は、協力者には見られなかった。さらに、表情が怒り顔の場合、左の半顔の優位性は消失した。これらの結果から、脳の感情的な領域と関連が深く、右の半顔よりも反社会的態度を効果的に隠蔽することができる左の半顔を利用していることが示唆された。

【Togetterによる簡単な研究紹介はこちら

●文献情報
Okubo, M., Ishikawa, K., &Kobayashi, A. (2014). No trust on the left side: Hemifacial asymmetries for trustworthiness and emotional expressions. Brain and Cognition, 82(2), pp.181-186.


【研究紹介15】偽りの笑顔は嘘つきの検出を阻害する(Journal of Nonverbal Behavior, 2012)

Abstract(ざっくり和訳)
先行研究において、人間はネガティブな表情表出に基づいて協力者と嘘つきを区別できることが報告されている。しかしながら、このような嘘つきの検出能力は、実際の社会生活において完璧なものではない。そのため、嘘つきは非協力的な態度を示すネガティブな感情表出を隠蔽するための能力を持っている可能性がある。この可能性を検証するために、経済ゲームの結果によって定義された嘘つきと協力者の顔写真に対して感情強度と信頼性を評価させた。顔写真は笑顔か怒り顔の静止画像であった。協力者と比較して、嘘つきの怒り顔は感情強度が高く、信頼性が低く評価されていた。その一方で、協力者と比較して嘘つきの笑顔は感情強度が高く評価されていたが、信頼性には差が見られなかった。これらの結果から、協力者よりも感情強度を高く認知される嘘の笑顔によって、ネガティブな感情表出の処理に基づく嘘つきの検出能力は阻害されていることが示唆された。

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●文献情報
Okubo, M., Kobayashi, A., & Ishikawa, K. (2012). A fake smile thwarts cheater detection. Journal of Nonverbal Behavior, 36, pp.217-225.


【研究紹介14】睡眠不足と欺瞞の自己制御モデルの構築:カフェインと社会的影響の役割(Journal of Applied Psychology, in press)

Abstract(ざっくり和訳)
近年、就業者の睡眠時間は徐々に短くなっている。先行研究では、睡眠不足は自己制御資源を消耗させ、非倫理的な行動を増加させることが示されている(Barnes, Schaubroeck, Huth, & Ghumman, 2011; Christian & Ellis, 2011)。本研究では、睡眠不足・自己制御資源の枯渇・欺瞞行動の従来の媒介モデルを拡張させるための実験を行った。まず、カフェインの摂取が自己制御資源を補充させる精神薬理学分野の知見から、睡眠不足と自己制御資源の枯渇の関連性を媒介する仮説を設定した。次に、自己制御資源が枯渇した人は他者からのネガティブな影響に抵抗できなくなるといった最近の社会心理学の知見から、社会的影響が自己制御資源の枯渇と欺瞞行動を媒介する仮説を設定した。実験室実験の結果は、調整変数と媒介変数を組み合わせた拡張モデルを支持し、職場での欺瞞行動に対する睡眠不足の役割を理解するための枠組みを提示した。

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●文献情報
Welsh, D. T., Ellis, A. P. J., Christian, M. S., & Mai, K. M. (2014). Building a Self-Regulatory Model of Sleep Deprivation and Deception: The Role of Caffeine and Social Influence. Journal of Applied Psychology, E pub ahead of print.


2014/08/14

【研究紹介13】2つの欺瞞:蟻に擬態したクモ(Peckhamima picata)は視覚的・化学的な手がかりを利用する捕食者の両方に捕まらない(PLoS One, 2013)

Abstract(ざっくり和訳)
特定の捕食者が知覚可能な異なる種類の手がかりごとに他の生物に擬態していることを強化するため、生物学的な擬態は多感覚であることがよくある。本研究では、少なくとも2つの捕食者を騙す新しい擬態について報告する。これらの擬態は捕食者の意思決定をするための異なる感覚モダリティに依存したものである。先行知見において、形態や行動を蟻に擬態したクモは、視覚的な手がかりを利用するハエトリクモに捕食されにくくなることが示された。本研究では、この蟻に擬態したクモは、化学的手がかりを利用しているクモを捕食するジガバチや、擬態している蟻からの攻撃を低下させていることを示した。また、蟻に擬態したクモは、擬態している蟻に化学成分を近づけているわけではなく、表皮の化学成分の濃度がかなり低いことが示された。研究の余地はまだまだあるが、蟻に擬態しているクモの視覚的な擬態と化学的な擬態は、それぞれを手がかりにする捕食者を騙すために利用されており、擬態における2つの欺瞞を示した最初の報告になると考えられる。今回の知見から、これまで「視覚的な擬態」と考えられてきたものが、実は化学的な擬態も行っている可能性を示された。

【Togetterによる簡単な研究紹介はこちら

●文献情報
Uma, D., Durkee, C., Herzner, G., & Weiss, M. (2013). Double Deception: Ant-Mimicking Spiders Elude Both Visually- and Chemically-Oriented Predators. PLoS One, 8(11), e79660.


2014/08/13

【研究紹介12】皮膚温から無意識的な虚偽検出を測定する(Frontiers in Psychology, 2014)

Abstract(ざっくり和訳)
虚偽検出に関する先行研究では、人は意識的に嘘を検出することは得意ではないが、直感レベルでは嘘を検出できている可能性が示されている。本報告では、嘘をつく人を見ているときの観察者の生理反応は、本人が気づいていなくても、嘘をつかれたことに反応している可能性について議論したい。この可能性を検証するための手法として、個人情報について真実か嘘を話す人のビデオを見ているときの、観察者の指の温度を測定することを提案する。先行知見から真実よりも嘘を話している人を見ているときに、観察者の皮膚温は低下すると予測される。さらに、嘘をつかれている可能性を示されないときと、示されるときに皮膚温が影響を受けるかについても検討する。これは参加者の疑惑を操作することで検討する予定である。また、嘘をつく人と真実を話す人に対する生理反応を測定した後に、観察した人に対する直接的な信憑性の判断(信頼性)か、間接的な信憑性の判断(嗜好)について検討する予定である。先行知見から、直接的な指標よりも間接的な指標の方が虚偽検出の指標として正確性が高いと予測される。

【Togetterによる簡単な研究紹介はこちら

●文献情報
Van’t Veer, A. E., Stel, M., Van Beest, L., & Gallucci, M. (2014). Registered report: measuring unconscious deception detection by skin temperature. Frontiers in Psychology, 5, e442.


【研究紹介11】君のことを知らないと嘘をつきたいけど、私の脳(楔前部)は協力してくれない(Scientific Reports, 2012)

Abstract(ざっくり和訳)
先行研究において前頭前皮質、前帯状領域や頭頂領域などの活性化が嘘をつく行為との関連があることが報告されてきた。しかし、これらの領域の賦活は嘘をつく行為に特化した神経活動ではなく、実行機能の活動を反映したものと考えられるため、嘘をつくときの妥当な指標とは言えない可能性がある。そこで、本研究では実行機能ではなく、顔の熟知性に関する神経活動を指標とすることで、顔の熟知性に関する嘘をつく行為に特化した指標を提案するための実験を行った。顔再認課題を用いた実験の結果、参加者の左楔前部の賦活状況によって、本当は見たことがある顔について「知らない」と嘘をついた85%(11/13)の嘘を見抜くことができた。この水準の正確性はチャンスレベル(50%)よりもかなり高く、先行研究で報告されている専門家の虚偽検出のレベルと同程度であった。

島皮質 From Wikipedia


【Togetterによる簡単な研究紹介はこちら

●文献情報
Lee, T. M. C., Leung, M., Lee, T. M. Y., Raine, A. & Chan, C. C. H. (2013). I want to lie about not knowing you, but my precuneus refuses to cooperate. Scientific Reports, 3, e1636.


2014/08/11

【研究紹介10】印象操作(“嘘”)尺度は対人的な自己統制と関連があり、欺瞞とは関連していない(Journal of Personality, 2014)

Abstract(ざっくり和訳)
本研究では、社会的望ましさを測定するための印象操作尺度(「嘘尺度」であるバランス型社会的望ましさ反応尺度の下位尺度)の妥当性を検証し、この尺度が実際には自己統制に関する特性を測定していることを示した。また、バランス型社会的望ましさ反応尺度のもう一つの下位尺度である自己欺瞞尺度と比較を行い、この尺度が嘘尺度として妥当であることを示した。実験1(参加者99人)では、実際の自己と理想的な自己を想定して、これらの尺度に回答した。実際の自己と理想的な自己の評価には高い相関が見られる場合は、嘘尺度として妥当でない可能性がある。その結果、印象操作尺度にはある程度の相関が見られたが、自己欺瞞尺度には相関が見られなかった。実験2(参加者140人:70組)では、印象操作尺度と自己欺瞞尺度について自己と他者の評価が一致する程度について検討した。自己と他者の評価が一致していた場合は、測定された特性が行動として表出されている可能性がある。その結果、自己と他者の評価が一致していたのは印象操作尺度のみであり、印象操作尺度で測定された特性が実生活にも反映されていることが示された。実験3(参加者182人)では、印象操作尺度と自己欺瞞尺度の個人差を説明するために自己統制が重要であるかについて検討した。その結果、印象操作尺度と自己欺瞞尺度において自己統制が重要であることが示された。実験4(参加者190人:95組)では、他者の評価による自己統制が印象操作尺度と自己欺瞞尺度に一致する程度について検討した。その結果、他者の評価による自己統制は印象操作尺度のみと相関していた。以上の結果から、印象操作尺度は社会適応を志向した自己統制に関連する特性を測定しており、自己欺瞞尺度は壮大な自己を反映した欺瞞傾向を測定していることが示された。また、印象操作尺度で測定される特性は他者に伝わっているが、自己欺瞞尺度で測定する特性は他者に伝わっていないことからも、自己欺瞞尺度の嘘尺度としての妥当性が示唆された。

【Togetterによる簡単な研究紹介はこちら

●文献情報
Uziel, L. (2014). Impression management ('lie') scales are associated with interpersonally oriented self-control, not other-deception. Journal of Personality, 82(3), pp.200-212.


【研究紹介9】社会的排斥への適応的反応:社会的拒絶は本当と嘘の笑顔の判別能力を改善する(Psychological Science, 2008)

ショートレポートのためabstractはありません。社会的に拒絶されると、本当の笑顔か愛想笑いかを判別する能力が高まるといった内容です。Togetterの簡単なまとめをご参照ください。

【Togetterによる簡単な研究紹介はこちら

●文献情報
Bernstein, M. J., Young, S. G., Brown, C. M., Sacco, D. F., & Claypool, H. M. (2008). Adaptive responses to social exclusion: social rejection improves detection of real and fake smiles. Psychological Science, 19(10), pp.981-983.


2014/08/09

【研究紹介8】どんな人が正直者?どうして正直なの?(Biological Psychology, 2013)

Abstract(ざっくり和訳)
人は利己的な嘘をつくことがある。しかしながら、嘘をつく傾向は個人差が非常に大きく、この理由はまだよく分かっていない。この個人差はこれまで主に主観指標を用いて検討されてきたが、良い結果が得られていない。そこで本研究では、生態学的に妥当な嘘をつかせる課題とともに、客観的で安定した個人差を測定することができる安静時の脳波を指標として使用した。実験の結果、身体内部の状態を把握し、感情的な覚醒感や感情の生起を示す脳領域である「前島(anterior insula)」の安静時の神経活動は、嘘をつく傾向を示す個人差を予測することが示された。安静時の前島の神経活動が高い人は、実験課題で嘘をつかなかった。さらに、安静時の前島の神経活動が高い人は、嘘をつくときにネガティブ感情が生起され、感情が生起する状況を回避する傾向が高い人だった。したがって、常時からネガティブな感情のシステムが強く活性化している人は、嘘をつくことにかなりストレスや厄介さを感じているため、嘘をつくことを避けていることが、神経的・心理的指標から示された。

【Togetterによる簡単な研究紹介はこちら

●文献情報
Baumgartner, T., Gianotti, L. R., & Knoch, D. (2013). Who is honest and why: baseline activation in anterior insula predicts inter-individual differences in deceptive behavior. Biological Psychology, 94(1), pp.192-197.

2014/08/07

【研究紹介7】疲れ果てると本当のことなんて言っていられない(Journal of Experimental Social Psychology, 2009)

Abstract(ざっくり和訳)
嘘をついて利益を得る機会は、自己利益を得るために嘘をつく誘惑と社会的に適切な方法で行動する望ましさの間で葛藤を生じさせることになる。正直に振る舞うかは自己統制能力に依存している。自己統制能力とは、反社会的で利己的な行動ではなく、社会的に望ましい行動を選択するために必要な能力である。本研究では、自己統制資源を使用する課題を行うことで資源が枯渇した場合に、人は嘘をつくようになるといった仮説を検証するため2つの実験を行った。実験1の結果では、自己統制資源が枯渇していない人よりも、枯渇した人は自身の成績を偽り、金銭的報酬を得ていた。また、厄介な結果が実験2で得られた。自己統制資源が枯渇した人は、自己統制資源が枯渇した状況を想像してもらい、嘘をつくかどうかを尋ねると嘘をつかないと回答していたが、実際の状況では嘘をついていた。以上の結果から、自己統制資源が枯渇したときに人は嘘をつくようになり、そのような状況を事前に想定できていないため、嘘をつくことに対して脆弱性を抱えていることが示された。

【Togetterによる簡単な研究紹介はこちら

●文献情報
Mead, N. L., Baumeister, R. F., Gino, F., Schweitzer, M. E. & Ariely, D. (2009). Too Tired to Tell the Truth: Self-Control Resource Depletion and Dishonesty. Journal of Experimental Social Psychology, 45(3), pp.594-597.

【研究紹介6】意図的な嘘をつくときの状況要因とパーソナリティ要因(PLoS ONE, 2011)

Abstract(ざっくり和訳)
特定の状況が人を嘘つきにし、嘘をつきやすい特定の性格はあるのだろうか。嘘をつくときの性格や環境の相互作用は、一般社会において何が不誠実さを促進するのかを理解するために非常に重要である。嘘をつく行為は本質的に自発的かつ社会的であるため、実験環境において自然な形でこの行動を再現することは非常に困難である。本研究ではこの問題を解決することができる新しい手法を開発した。参加者は、自分が嘘をついたかどうかが相手に開示されるリスクと、不利益を回避するか利益を獲得する状況において、相手に嘘をつくかを判断するやりとりする課題である。このような生態学的に妥当な実験手法は参加者が自発的に嘘をついたり、他者から嘘をついていたことを責められたりすることを実現している。不利益を回避する状況において、人は嘘をつくようになっていた。コミュニケーションに関する性格も重要な役割を担っていたが、他者に嘘をついたことが開示されるリスクがあるときに嘘をつかなくなっていた。本研究の結果から、自分にとって望ましくない状況は嘘をつくことを促進し、特に社会的に受容されたいと考えている人は、相手に嘘をついたことが開示されるリスクがあるときに、嘘をつくことが抑制されることが示唆された。

【Togetterによる簡単な研究紹介はこちら

●文献情報
Panasiti, M. S., Pavone, E. F., Merla, A., & Aglioti, S. M. (2011). Situational and dispositional determinants of intentional deceiving. PLoS ONE, 6(4), e19465.

2014/08/05

【研究紹介5】嘘をつくときに視線をそらすといった知識が、子供が実際に嘘をつくときの視線行動に与える影響(Journal of Experimental Child Psychology, 2009)

Abstract(ざっくり和訳)
他者と目を合わせる行動はコミュニケーションの中で非常に重要な役割を果たしている。嘘をついているとき、嘘をつく人は目をそらしたり、下を見たりすると一般的に考えられている。本研究では嘘をつくときの子どもの視線行動がこの考えと一致しているかについて検討を行った。7から15歳の子どもおよび成人は、実験者の質問に真実を回答するか、嘘を回答するか、ちょっと考える必要がある質問に回答した。7から9歳の児童は、他の条件と比較して嘘をつくときに目をそらしていた。また、嘘をつくときの目をそらす行動は特徴的な行動であった。その一方、11歳以上の子どもや成人は条件間で視線行動に違いが見られなかった。年齢が高くなるほど、嘘をつくときに目をそらすといった知識を持つ割合が高まっていた。この知識は嘘をつくときの実際の視線行動を有意に予測していた。本研究の結果から、年齢が増加するにつれて、参加者は嘘をついていることを隠蔽するためにディスプレイ・ルールに関する知識の活用をしだいに洗練させていくことが示唆された。

【Togetterによる簡単な研究紹介はこちら

●文献情報
McCarthy, A., & Lee, K. (2009). Children's knowledge of deceptive gaze cues and its relation to their actual lying behavior. Journal of Experimental Child Psychology, 103(2), pp.117-134.

2014/08/04

【研究紹介4】無意識や直感が嘘を見抜く能力を向上させる研究いくつか

3つの研究紹介です。

Togetterによる簡単な研究紹介はこちら

1.無意識的に嘘を見抜くことを示す証拠
Abstract(ざっくり和訳)
 生存や繁殖の成功を最大化するために、霊長類は嘘をつく傾向と嘘を正確に見抜く能力を進化させてきた。嘘を正確に見抜くことに明らかに利点があるにもかかわらず、意識的に嘘を見抜く確率は偶然よりも少しだけ正確なこと(54%前後)が報告されている。しかしながら、犯罪心理学、神経科学や霊長類学の知見において、嘘を見抜くときに無意識的な心のプロセスが用いられた場合には正確性が向上することが示唆されている。本研究では、他者が嘘をつく行動を見た人は、嘘に関連した認知的概念が自動的に活性化し、他者が真実を話す行動を見た人は、真実に関連した認知的概念が自動的に活性化することを仮定した2つの研究を行った。その結果、直接的な指標で嘘を判断させるよりも、間接的な指標で嘘を判断させたときに正確に嘘を見抜いていたことが示された。今回の結果は、人間の嘘を見抜く能力を再考し、新しいアプローチの仕方を提案するものと言える。

●文献情報
Brinke, L., Stimson, D., & Corney, D. R. (2014). Some evidence for unconscious lie detection. Psychological Science, 25(5), pp.1098-1105.


2.無意識的な心のプロセスは嘘を見抜く能力を向上させる
Abstract(ざっくり和訳)
 嘘つきを見抜く能力は社会関係のバランスを維持するために不可欠なものであるが、人間は嘘を見抜くことが一般的に苦手である。実際に、非常に多くの先行研究は、真実と嘘を区別するときの確率は偶然よりも少しだけ正確なこと(54%前後)が報告されている。しかし、本研究で実施した5つの実験の結果から、一定時間の無意識的な処理を行った後には嘘を見抜く能力が非常に高まることが示された。特に、意識的に熟考し続けた人は、意識的に考えるように仕向けられた人や即座に判断を求められた人よりも、嘘を見抜く能力が低下していた。また、無意識的な心のプロセスを経た後の嘘を見抜く確率は偶然よりも高かった。本研究において無意識的な心のプロセスを経ると嘘を見抜く能力が向上するのは、無意識的な心のプロセスを通して嘘を正確に見抜くために必要な特定の情報を統合させることが可能になるためであることが示された。人間の心理は真実と嘘を意識的に区別することには適していないが、これまでの研究で見落とされてきた無意識的な心のプロセスに嘘を見抜く能力が存在することが示唆された。

●文献情報
Reinhard, M.A., Greifeneder, R., & Scharmach, M. (2013). Unconcious processes improve lie detection. Journal of Personality and Social Psychology, 105(5), pp.721-739. (abstractのみ)


3.直感は嘘を見抜く能力を改善できるか?
Abstract(ざっくり和訳)
 嘘を見抜く課題中の処理スタイル(直感処理・熟考処理)の役割を検討するために2つの実験を行った。実験1では、従来の嘘を見抜く方法として採用されてきた熟考処理と比較して直感処理に基づく判断は嘘を見抜く能力を向上させることが示された。実験2では、嘘を判断するときに言語的な合理性を考えるように指示された参加者と何も指示されていない参加者(統制条件)と比較して、嘘を判断するときに別の課題を行った参加者は嘘を見抜く能力が向上していた。本研究の結果から、直感処理が嘘を見抜く能力を向上させることが示唆された。

●文献情報
Albrechtsen, J. S., Meissner, C. A., & Susa, K. J. (2009). Can intuition improve deception detection performance? Journal of Experimental Social Psychology, 45(4) pp.1052-1055.

2014/08/01

【研究紹介3】テストテロンを投与された男性は嘘をつかなくなる(PLoS One, 2012)

Abstract(ざっくり和訳)
 嘘をつくことは社会的、経済的に重要な意味をもつ一般的な現象である。嘘をつく普遍性や決定因にかなりの関心が集まっているにも関わらず、嘘をつく行為の生物学的な基盤に関してはほとんど研究されてこなかった。そこで、本研究では社会的行動に重要な役割を持つステロイドホルモンの一種であるテストステロンに着目し、ホルモンの潜在的な影響について検討した。二重盲検法に基づいて、91人の健康な男性(平均年齢24.32歳、SD = 2.73歳)のうち、46人は50mgのテストステロンを経皮投与され、45人は偽薬を投与された。その後、参加者は自己報告するサイコロの目の結果によって実験の報酬が決まる簡単な課題を行った。参加者は嘘が実験者にばれることない状況にあったため、不当に報酬を高くすることが可能だった。その結果、偽薬群と比較してテストテロンを投与された男性は嘘をつかないことが示された。具体的には両群の参加者は自己利益的な嘘をついていたが、テストテロンを投与された参加者の自己報告による報酬は有意に低くなっていた(1%水準)。本研究の結果は、向社会的行動とその基盤となるチャネルにおけるテストテロンの効果に関する最近の議論に寄与するものであった。

【Togetterによる簡単な研究紹介はこちら

●文献情報
Wibral. M., Dohmen, T., Klingmüller, D., Weber, B., & Falk, A. (2012). Testosterone Administration Reduces Lying in Men. PLoS One, 7(10), e46774.

【研究紹介2】幼児初期の嘘(Developmental Psychology, 2013)

Abstract(ざっくり和訳)
 嘘をつくことは一般的な行動の一つである。これまでの実証研究では、3歳半(42か月)を超えると子どもは多様な社会的状況で嘘をつくことが可能になることが示唆されている。しかしながら、幼児初期の子どもが自発的に嘘をつくかどうかに関する実証研究は限られている。そこで、本研究では幼児初期の嘘に関する実験を行った。65人の2から3歳の子どもは実験者が指示をだした時から魅力的なおもちゃを見ないように依頼された。その結果、子どものほとんど(80%)が約束を破り、おもちゃを見ていた。実験者におもちゃを見たかどうかを尋ねられたとき、おもちゃを見ていたほとんどの2歳児は正直におもちゃを見たことを報告した。その一方で、年齢が大きくなるにつれて、おもちゃを見ていた子供は、おもちゃを見ていないと報告した(つまり、嘘をついていた)。しかし、子供たちがついた最初の嘘を見抜かれないようにするための能力を評価する事後質問を行うと、ほとんどの子どもがおもちゃの特徴を正直に回答してしまい、嘘をつき続けることができなかった。さらに、年齢を統制したとしても、子どもの実行機能は幼児の嘘をつく傾向を予測していた。これらの知見は幼児初期において子どもが嘘をつき始めることを示唆している。

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【研究紹介1】オウチョウは他の鳥の警戒声を鳴き真似してだます(Science, 2014)

Abstract(ざっくり和訳)
 自然界において欺瞞の利用は一般的である。ただし、しょっちゅう欺瞞にさらされている場合、欺瞞の受け手は欺瞞メッセージを弁別し、最終的には無視するようになる。しかしながら、欺瞞メッセージを柔軟に変化させると、そのような制約を回避できることが明らかになった。2つの尾羽を持つオウチョウ(Dicrurus adsimilis)は、他の種に恐怖を喚起させる嘘の警戒声を使用することでその場から逃避させ、食料を盗む。本研究では、オウチョウが対象となる種の警戒声を模倣することを示した。また、対象となる種は警戒声に繰り返しさらされたときに警戒反応が低減していた。しかし、警戒声が変化したときの恐怖反応は維持されていた。オウチョウは特定の種から繰り返し食料を盗もうとしているときに、警戒声のタイプを変化させることによってこの他種の恐怖反応を悪用していた。以上、オウチョウは警戒声を柔軟に変化させることによって欺瞞の報酬を制限する頻度に依存した制約を回避可能であることが示された。

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オウチョウ From Wildlife den