2014/11/27

【研究紹介31】過去に不誠実な行動をとった子どもは,他者も不誠実であると考えやすい―ただし,逆も然り(International Journal of Behavioral Development, in press)

Abstract(ざっくり和訳)
本研究では,8~17歳までの子どもや青年の過去にカンニングや嘘をついた行動が,同じ年齢くらいの人たちの誠実性の判断に影響を与えるかについて検討を行った。8~17歳の80人の参加者は,同じ年齢くらいの人が試験の回答をカンニングしたか尋ねられたときに否定する映像を見て,その人たちの誠実性を判断するように求められた。なお,この参加者は著者達がカンニングや嘘をつく行動についての研究(Evans & Lee, 2010)に参加しており,過去のカンニングや嘘行動を把握されている人だった。参加者の誠実性判断の正答率はチャンス・レベル(50%)であったが,参加者の過去のカンニングや嘘行動によって誠実性の判断にバイアスが生じていることが示された。具体的には,過去にカンニングや嘘をついた子どもや青年は,同じ年齢くらいの人も同様にカンニングや嘘をつくと考え,対象者を不誠実に判断する方向にバイアスが生じていた。その一方,過去にカンニングや嘘をついていない子どもや青年は,同様にカンニングや嘘をつかないと考え,対象者を誠実に判断する方向にバイアスが生じていた。これらの結果から,8歳以上の子どもには自身の嘘行動と他者の誠実性判断に関連性があることが示唆された。

●文献情報
Evans, A. D., & Lee, K. (in press). The relationship between 8- to 17-years-olds’ judgments of other’s honesty and their own past honest behavior. International Journal of Behavioral Development.

以下、ざっくり内容紹介。

  • 他者の誠実性の判断に,過去の自身の嘘行動が影響を与えるかについて実験的に検討しています。今回の研究では,他者のことを考えるときに自分をモデルとして判断するためによくバイアスが生じるといった研究に基づいています。


  • 先行研究では,日常生活でカンニングをせず,嘘をつかない人は他者を信頼しやすいといったことが報告されていました。今回は8から17歳までの子どもや青年を対象に先行研究と同様の結果が得られるかについて検討しています。



  • 今回の研究でおもしろいのが参加者の過去のカンニングや嘘行動を事前に把握できている点です。これは著者達のカンニングや嘘行動を扱った先行研究に参加した人を対象にしているため,その実験で実際にカンニングしたり,嘘をついたりしたことを行動レベルで測定できています。これらの行動から参加者を“カンニングをせず,正直な人”,“カンニングはしたが,正直に答えた人”と“カンニングをして,嘘をついた人”の3群に分けています。


  • 実験では上記の先行研究の映像を切り出しており,カンニングしたかという質問に「していない」と回答している映像を見せています。全部で46個(真実23個,嘘23個)の映像を見せ,映像の回答者が誠実に答えているかを2件法(真実・嘘)で評価させています。
  • 実験の結果,過去の行動によらず誠実性の判断は50%前後であり,ほとんど判断できていませんでした。しかし,反応バイアスを詳細に見てみると過去の行動の影響が見られていました(図1)。具体的には,過去に正直な行動をとっていた人は他者を誠実であると評価しやすく,過去に不正直な行動をとっていた人は他者を不誠実であると評価しやすくなっていました。


図1 過去の不誠実な行動別の他者の誠実性判断に対する反応バイアス
注1)値は信号検出理論に基づくC(クライテリオン)です。
注2)正の値は誠実側に判断,負の値は不誠実側に判断していることを示します。

  • この結果でおもしろいのは,カンニングをした後に正直に回答している人と嘘をついた人は同様の傾向を示していたことです。他者の誠実性判断のバイアスには,不正直に行動するか否かが重要になってくると考えられます。
  • 最後の考察で研究の限界や今後の展開について議論されています。興味がある方はぜひ本文をご覧ください。


2014/11/20

【研究紹介30】嘘をついた方が道徳的?他者を思いやる気持ちと誠実性が葛藤する状況における嘘行動(Journal of Experimental Social Psychology, 2014)

Abstract(ざっくり和訳)
本研究では真実を伝えるよりも、道徳的だと考えられる嘘があることを実証した。本研究で実施した3つの実験において、他者の利益となることを意図してついた嘘である「向社会的な嘘」をつく人は、自己の利益を高める真実を伝える人よりも道徳的であると考えられていた。実験1では、話し手と聞き手の利益配分を操作したゲームによって利他的な嘘と利己的な真実を伝えるときの道徳・博愛・誠実性に関して比較した。実験2では、メッセージの真偽性、話し手の意図や、得られた利益の結果の影響を検討するために、メッセージが25%の確率でコンピュータによって自動的に上書きされてしまう設定のゲームを用いて検討した。実験3では、嘘の道徳性判断は嘘をつかれた人にどのような結果を与えることを意図されていたかが重要であり、嘘をついた人自身の結果は重要でないことを示した。誠実性と博愛の両方とも道徳性の要素に必要不可欠である。しかしながら、本研究の結果から、これらの価値が葛藤したときに、誠実性よりも博愛が重要と考えられることが示唆された。より一般的に考えると、他者に親切にするといった道徳的基盤は、正義の道徳的基盤よりも重要である可能性がある。

●文献情報
Levine, E. E., & Schweitzer, M. E. (2014). Are liars ethical? On the tension between benevolence and honesty. Journal of Experimental Social Psychology, 53, pp.107-117.

以下、ざっくり内容紹介。

  • 相手のためにつく嘘は、自分の利益となる真実よりも道徳的に捉えられるかについて実験した研究です。著者たちが開発した“数字ゲーム”で、話し手と聞き手の報酬を操作することによって、非常にうまく嘘と真実を定義しています。ゲームの詳細は実験1~3の手続きをご覧ください。こちらは一読の価値ありだと思います。
  • 著者たちはこれまで道徳性の判断に関する研究では、利己的な嘘が対象になることが多かったことに疑問を持ち、向社会的な嘘(prosocial lies)を対象にした場合は結果が異なることを想定した研究を進めています。
  • 嘘の定義は研究者によって異なりますが、今回の研究では向社会的な嘘と利他的な嘘(altruistic lies)を区別しています。後者は話し手に損失が生じる嘘として定義していました。
  • 実験は全部で3つ実施しています。細かい結果は本文をご覧ください。概ね著者たちが想定していた通りの結果が得られています。今回の研究のメインとなる結果を1つだけ示します(図1)。利己的な真実よりも利他的な嘘の方が道徳性が高く評価されていました。

図1 伝えるメッセージ別の道徳性の評価(実験1の結果)
注)エラーバーは標準偏差
  • 得られた結果をまとめると、“①利己的な真実よりも利他的な嘘の方が道徳性が高く評価される、②嘘をつく人の報酬を配分するときの意図が重視され、嘘をつかれた人の実際の報酬は道徳性の判断にほとんど影響がない、③嘘をつく人が得る報酬は道徳性の判断にはほとんど影響がない”でした。
  • 考察では、道徳性の判断に関連が強いとされる他者を思いやる気持ち(care)と正義(justice)が葛藤するときには他者を思いやる気持ちの方が重視される可能性を示していました。
  • 研究の限界と今後の展開については、今回の実験のように嘘をつく人の動機が明確でない場合やより現実場面に近い嘘では道徳性の判断がどのようになるかについて検討を進める必要があると議論されていました。


2014/11/13

【研究紹介29】表出者の意図が異なる「本当」の笑顔と「嘘」の笑顔の特徴をもつ表情に対する模倣(Journal of Nonverbal Behavior, 2014)

Abstract(ざっくり和訳)
本当の笑顔(Duchenne smile)は自発的な喜びが生じたときに表出されるのではなく、本当の笑顔を示す特徴をもつ表情を意図的に模倣できることを示す知見が蓄積されている。本研究では、a) 自発的に表出された本当の笑顔、b) 意図的に表出された本当の笑顔の特徴を持つ表情、c) 自発的に表出された嘘の笑顔、d) 意図的に表出された嘘の笑顔の特徴を持つ表情を見たときに表情模倣が同程度に生じるかどうかを検討することを目的とした。実験ではa) からd) の各表情を短い映像で呈示し、その映像を見ているときの参加者の顔面筋電反応を記録した。また、全ての表情を見終わった後に再度同様の表情が呈示され、表出者の感情価・覚醒感・笑顔の本当らしさを評価した。その結果、先行研究と同様に、笑顔の表出者の意図性および笑顔の形態特徴の違いによって感情価と覚醒感の評定は有意に異なっていた。しかしながら、表情模倣を示す顔面筋電反応の違いは笑顔の形態特徴(本当の笑顔・嘘の笑顔)によってのみ生じていた。本研究の結果は、他者の表情を理解するために表情模倣が果たす役割に関連した問題に対して重要な意義を持ち、笑顔のさまざまな意味を判別するときに表情模倣が重要である可能性を示している。

●文献情報
Krumhuber, E. G., Likowski, K. U., & Weyers, P. (2014). Facial mimicry of spontaneous and deliberate Duchenne and non-Duchenne smiles. Journal of Nonverbal Behavior, 38(1), pp.1-11.

以下、ざっくり内容紹介

  • 表情模倣(facial mimicry)に関する研究です。今回の研究では、さまざまな笑顔に対する表情模倣の検討を行っています。笑顔の種類はやや複雑です。
  • 表情模倣とは、コミュニケーションをとっている人の表情を無意識的に模倣する現象のことです。表情模倣が生じることで他者の感情や意図の理解が促進されることがいくつかの研究で報告されています。
  • 今回の研究では本当の笑顔(Duchenne smile)と嘘の笑顔(non-Duchenne smile)に対する表情模倣の研究です。これまで自発的な喜びが生じたときにだけ本当の笑顔が表出されると考えられてきましたが、実はそうでもないことが報告されています。



  • 本当の笑顔を示す特徴は目尻が下がることとされてきました。これは不随意筋である眼輪筋が関与しているため、意図的には変えることができないと考えられてきました。しかし、人によっては意図的に目尻を下げることができるそうです。
  • ということで、著者たちは笑顔を表出するときの意図性(自発的・意図的)と、笑顔の形態特徴(本当の笑顔・嘘の笑顔)を操作した短い映像を見せたときの参加者の顔面筋電反応(大頬骨筋・眼輪筋・皺眉筋)を記録することで、表情模倣に違いがあるか検討していました。刺激の作成方法や細かい呈示方法は本文をご参照ください。
  • また、表情模倣をするかどうか検討した映像について、表出者の感情価・覚醒感・笑顔の本当らしさを9件法で評価させています。
  • 実験計画は、笑顔を表出するときの意図性(自発的・意図的)×笑顔の形態特徴(本当の笑顔・嘘の笑顔)2要因参加者内計画です。参加者は女性の大学生30名でした。女性の参加者だけにしたのは先行研究から女性の方が表情模倣が生じやすいことがわかっているためでした。
  • 実験の結果、顔面筋電反応に関しては笑顔の形態特徴の主効果しか見られませんでした。嘘の笑顔よりも本当の笑顔を見ていた参加者の大頬骨筋と眼輪筋の活動が大きく、皺眉筋の活動は弱くなっていました(図1)。この結果から表情模倣は生じていたと考えられます。皺眉筋の活動は緊張を反映しているため、本当の笑顔のときの方が活動が低下すると考えられます。

図1 参加者の顔面筋活動
注)エラーバーは標準誤差


  • 興味深いのは、笑顔を表出するときの意図性に関する効果は見られなかったことです。表出された笑顔の意図性に関わらず、形態特徴が本当の笑顔を示す時に表情模倣が強く生じていたと考えられます。
  • その一方で、主観評価である感情価には笑顔の意図性と形態特徴に有意な交互作用が見られていました(図2)。自発的な本当の笑顔は、自発的・意図的な嘘の笑顔よりもポジティブに評価されていました。また、意図的な本当の笑顔は、自発的・意図的な嘘の笑顔よりもポジティブに評価されていました。さらに、意図的な嘘の笑顔は、自発的な嘘の笑顔よりもポジティブに評価されていました。
  • 笑顔の真正さにも同様の交互作用が見られていました(図2)。自発的な本当の笑顔は、自発的・意図的な嘘の笑顔よりも真正さが高く評価されていました。また、自発的な本当の笑顔は、意図的な本当の笑顔よりも真正さが高く評価されていました。さらに、意図的な本当の笑顔と、自発的・意図的な嘘の笑顔には真正さの評価に差がみられませんでした。
  • 笑顔の覚醒感には笑顔の形態特徴の主効果のみが有意でした(図2)。本当の笑顔は、嘘の笑顔よりも覚醒感が高く評価されていました。こちらの評定はなぜか数値が小さいほど覚醒的になっていることを示しているのに注意してください。


図2 笑顔自体に対する主観評価
注1)エラーバーは標準誤差
注2)覚醒感は値が小さいほど覚醒していることを示す


  • 以上のように主観的な水準では笑顔の表出者の意図をある程度弁別できていましたが、表情模倣という観点からは意図の弁別はできていないことが示されました。興味深い結果です。
  • 著者たちは本当の笑顔とは何かについて改めて整理する必要性を示唆しています。表情の形態特徴からだけではなく、表出者の意図性(自発的・意図的)も考慮して検討していくべきだと主張していました。


2014/11/04

【研究紹介28】本当の笑顔を示す手がかりは笑顔・人の特徴の評価に異なる影響を与える(Journal of Nonverbal Behavior, 2013)

Abstract(ざっくり和訳)
楽しさ・真正さ・自然さ・強さなどの他者の笑顔を評価する場合、評価者は対象者の目尻を下げる眼輪筋の活動を頼りにすることが多い。それでは、このような“本当”の笑顔を示す手がかりは、魅力・知性・優位性・信頼性などの人の特徴といったより一般的な判断に関しても影響を持つのだろうか。この疑問を検討するために、本研究では24人(男性12人・女性12人)の“本当”の笑顔と“嘘”の笑顔を呈示し、笑顔とその人の特徴について48人の参加者に評価させた。その結果、“本当”の笑顔を示す手がかりがある場合には、楽しさ・真正さ・自然さ・強さといった笑顔の評価は全て高くなっていた。その一方で、人の特徴の評価に関しては笑顔の効果に不均一な影響が見られた。“本当”の笑顔を示す手がかりがある場合には、魅力・優位性・知性の評価は増加していたが、信頼性の評価は影響が見られなかった。これらの結果から、対象となる人の社会的参照としての“本当”の笑顔を示す手がかりは、検討中の特徴のタイプによって異なることが示唆された。

●文献情報
Quandflieg, S., Vermeulen, N., & Rossion, B. (2013). Differential reliance on the Duchenne marker during smile evaluations and person judgments. Journal of Nonverbal Behavior, 37(2), pp.69-77.

以下、ざっくり内容紹介

  • “本当”の笑顔と“嘘”の笑顔の評価について検討しています。それぞれの顔を見せて、笑顔自体の評価(楽しさ・真正さ・自然さ・強さ)と、その人の特徴の評価(魅力・知性・優位性・信頼性)をさせています。著者たちの興味関心は“本当”の笑顔は、その人の特徴の評価に影響を持つかどうかです。
  • “本当”の笑顔と“嘘”の笑顔に関しては様々な文献で取り上げられていますが、心からの笑顔は目じりが下がることが指摘されています。こちらのサイトに非常にわかりやすい画像がアップされています。Duchenne smileが“本当”の笑顔、non- Duchenne smileが“嘘”の笑顔です。



  • Duchenne smileは心からの笑顔として扱われてきましたが、こちらは最近さまざまな議論があるようです。興味がある方は以下の文献をご参照ください。必ずしも目尻が下がることが本当の笑顔を示すわけではないという主張もあるようです。



  • 実験は非常に単純です。参加者は24人の“本当”の笑顔と“嘘”の笑顔の写真を見て、笑顔自体に関する評価とその人の特徴に関する評価を9件法(1:まったくない~9:非常にある)で行っています。写真の半分は女性でした。
  • ただし、先行研究と比較して“本当”の笑顔と“嘘”の笑顔の統制が厳密です。従来の研究では“本当”の笑顔と“嘘”の笑顔は目じりだけでなく、口元の強度も異なったものが多かったためフォトショップで加工を行い、異なるのは目じりの手掛かりだけにしてあります。またディストラクター刺激として口元の強度が異なる写真も入れてありました。
  • 笑顔自体の評価とその人の特徴の評価について、笑顔別に相関を算出しています。その結果、笑顔自体の評価間と特徴の評価間には高い相関が見られました。その一方、笑顔自体の評価と特徴の評価にはほとんど相関が見られず、笑顔の真正さ・自然さと信頼性にのみ有意な正の相関が見られています。
  • また、笑顔の種類を参加者内要因として笑顔自体の評価とその人の特徴の評価に対してMANOVAを行っています。その結果、笑顔自体の評価に関しては“嘘”の笑顔よりも“本当”の笑顔は楽しさ・真正さ・自然さ・強さが全て高くなっていました(図1)。


図1 笑顔別の笑顔自体の評価

  • その一方、その人の特徴の評価に関しては“嘘”の笑顔よりも“本当”の笑顔は魅力・知性が高く、優位性は高い傾向が見られました(図2)。


図2 笑顔別のその人の特徴の評価

  • 以上の結果から、笑顔自体の評価は“本当”の笑顔と“嘘”の笑顔の手掛かりの影響を強く受けるが、その人の特徴の評価はこの手がかりがあるかよりも、その笑顔を見たときに真正さや自然さを感じるかに影響を受ける可能性を議論していました。
  • 研究紹介26では真顔と笑顔の信頼性に関する評価に性差が見られ、女性は笑顔の人の信頼性を高く評価することが示されていました。こちらの結果も踏まえると、愛想笑いでもいいので笑顔を向けた方が信頼性は高く評価されると考えられます。