2014/11/20

【研究紹介30】嘘をついた方が道徳的?他者を思いやる気持ちと誠実性が葛藤する状況における嘘行動(Journal of Experimental Social Psychology, 2014)

Abstract(ざっくり和訳)
本研究では真実を伝えるよりも、道徳的だと考えられる嘘があることを実証した。本研究で実施した3つの実験において、他者の利益となることを意図してついた嘘である「向社会的な嘘」をつく人は、自己の利益を高める真実を伝える人よりも道徳的であると考えられていた。実験1では、話し手と聞き手の利益配分を操作したゲームによって利他的な嘘と利己的な真実を伝えるときの道徳・博愛・誠実性に関して比較した。実験2では、メッセージの真偽性、話し手の意図や、得られた利益の結果の影響を検討するために、メッセージが25%の確率でコンピュータによって自動的に上書きされてしまう設定のゲームを用いて検討した。実験3では、嘘の道徳性判断は嘘をつかれた人にどのような結果を与えることを意図されていたかが重要であり、嘘をついた人自身の結果は重要でないことを示した。誠実性と博愛の両方とも道徳性の要素に必要不可欠である。しかしながら、本研究の結果から、これらの価値が葛藤したときに、誠実性よりも博愛が重要と考えられることが示唆された。より一般的に考えると、他者に親切にするといった道徳的基盤は、正義の道徳的基盤よりも重要である可能性がある。

●文献情報
Levine, E. E., & Schweitzer, M. E. (2014). Are liars ethical? On the tension between benevolence and honesty. Journal of Experimental Social Psychology, 53, pp.107-117.

以下、ざっくり内容紹介。

  • 相手のためにつく嘘は、自分の利益となる真実よりも道徳的に捉えられるかについて実験した研究です。著者たちが開発した“数字ゲーム”で、話し手と聞き手の報酬を操作することによって、非常にうまく嘘と真実を定義しています。ゲームの詳細は実験1~3の手続きをご覧ください。こちらは一読の価値ありだと思います。
  • 著者たちはこれまで道徳性の判断に関する研究では、利己的な嘘が対象になることが多かったことに疑問を持ち、向社会的な嘘(prosocial lies)を対象にした場合は結果が異なることを想定した研究を進めています。
  • 嘘の定義は研究者によって異なりますが、今回の研究では向社会的な嘘と利他的な嘘(altruistic lies)を区別しています。後者は話し手に損失が生じる嘘として定義していました。
  • 実験は全部で3つ実施しています。細かい結果は本文をご覧ください。概ね著者たちが想定していた通りの結果が得られています。今回の研究のメインとなる結果を1つだけ示します(図1)。利己的な真実よりも利他的な嘘の方が道徳性が高く評価されていました。

図1 伝えるメッセージ別の道徳性の評価(実験1の結果)
注)エラーバーは標準偏差
  • 得られた結果をまとめると、“①利己的な真実よりも利他的な嘘の方が道徳性が高く評価される、②嘘をつく人の報酬を配分するときの意図が重視され、嘘をつかれた人の実際の報酬は道徳性の判断にほとんど影響がない、③嘘をつく人が得る報酬は道徳性の判断にはほとんど影響がない”でした。
  • 考察では、道徳性の判断に関連が強いとされる他者を思いやる気持ち(care)と正義(justice)が葛藤するときには他者を思いやる気持ちの方が重視される可能性を示していました。
  • 研究の限界と今後の展開については、今回の実験のように嘘をつく人の動機が明確でない場合やより現実場面に近い嘘では道徳性の判断がどのようになるかについて検討を進める必要があると議論されていました。