2014/09/04

【研究紹介22】オキシトシンを投与された男性は、集団のために嘘をつきやすくなる(Proceedings of the National Academy of Science, 2014)

Abstract(ざっくり和訳)
他者の幸福を保護し、促進するために、人は真実を歪めて社会規範に反した行動をとることがある(つまり、嘘をつくことがある)。本研究では、他者との親和性や協力を促進するホルモンであるオキシトシンと、このような集団のための嘘の関連性を検討した。嘘をつくと自分が所属する集団の利益が増加するコイントス課題(裏か表かを当てる)を用いて、オキシトシンを投与された参加者は集団のために嘘をつきやすくするといった仮説を検証した。オキシトシンの投与に関しては二重盲検法を用いた。参加者は嘘をついているかどうかを実験者に明らかにならない状況で自分の利益が集団の利益につながるコイントス課題を行った。その結果、オキシトシンの投与を受けていない参加者(男性30人)と比較して、オキシトシンの投与を受けた参加者(男性30人)は集団のために嘘をついており、嘘をつく判断時間も短くなっていた。また、オキシトシンの投与は、他の集団構成員が自分のために嘘をついてくれるといった互恵性の認知に影響を与えていなかった。オキシトシンの投与の効果は利益を取得するための課題で顕著であり、損失を回避するための課題に対しては影響が見られなかった。集団ではなく自己利益のみのために同様のコイントス課題を行った統制条件では、オキシトシンの投与の影響は見られなくなった。本研究の結果は、嘘をつくことが神経生物学的な回路の進化に深く根ざしていることを示す道徳形成における機能的観点と一致し、オキシトシンの分泌は意思決定者の焦点を自己から集団の利益に関心を移すといった先行研究と一致していた。

●文献情報
Shalvi, S., & De Drue, C. K. W. (in press). Oxytocin promotes group-serving dishonesty. Rroceedings of the National Academy of Science.

以下、ざっくり内容紹介

  • オキシトシンを投与されると、自分のためではなく、集団の利益のために嘘をつきやすくなることを報告した研究です。
  • オキシトシンを投与されると、他者の嘘を見抜けなくなる研究を以前紹介しました。
  • 課題は非常に単純です。PC上でコイントスを行った後の裏表を「頭の中」で予測してもらい、予測がはずれたか、あっていたかを報告します。頭の中での予測なので、実験者に嘘をついてもばれない状況設定になっています。
  • 予測が当たっていたときの報酬に関しては3条件が設定されており、当たっていたら€3もらえる利益獲得条件、当たっていたら€3の損失を回避できる損失回避条件、当たっていても報酬がない利益なし条件でした。
  • 実験を行う状況設定として、無作為の3人が1組の集団として設定され、得られた利益が集団に還元される集団条件と、参加者個人で実験に参加する個人条件がありました。
  • 今回の実験も嘘をついていたかどうかは報告された正答率の分布から検討しています。
  • 実験の結果、オキシトシンの効果が見られたのは利益獲得条件のみであり、オキシトシンを投与された人は集団のために嘘をついていたことが示されました(図1)。個人条件ではオキシトシンの効果が見られませんでした。
図1 課題条件別の予測が当たった回数
※論文から読みとったため値は正確ではありません。
  • また、集団条件と個人条件の利益獲得条件の結果を詳細に検討したところ、集団条件の極端に予測が当たった人(的中率90%以上)においてオキシトシンの効果が見られていました(図2)。つまり、集団条件でオキシトシンを投与された場合には、90%以上の極端な的中率を報告する人が多かったということです。

図2 実験条件・正答率別の予測が当たった割合
※論文から読みとったため値は正確ではありません。
  • さらに、集団条件の参加者に他のメンバーが集団のために嘘をついたと思うかを検討したところ、オキシトシンの効果は確認されませんでした。つまり、集団のために嘘をつくようになったのは、他者が自分のために嘘をついてくれるといった互恵性に依存していなかったということです。
  • 予測を回答するまでの反応時間を検討したところ、個人条件で差は見られませんでしたが、集団条件ではオキシトシンを投与された場合に反応時間が速くなっていました(図3)。

図3 実験条件別の反応時間
※論文から読みとったため値は正確ではありません。
  • 以上の結果をまとめると、集団の利益を獲得する状況においてオキシトシンの分泌は意思決定を早くかつ直感的にさせていることが示唆されたと考察されています。
  • また、著者達はオキシトシンの分泌に関連する神経回路が人の社会規範の学習に関わる生物学的な基盤になっている可能性を主張していました。


2014/08/27

【研究紹介21】誠実になるためには時間(と正当化できない状況)が必要(Psychological Science,2012)

Abstract(ざっくり和訳)
多くの先行研究では、嘘をつきたくなる状況で嘘をつかないためには自己制御資源が必要になることから、人は自己利益を獲得しようとする傾向が初期設定になっている可能性が示されている。しかしながら、他の研究では、自分の非倫理的な行動を正当化できる範囲でしか嘘をつかない可能性が示されている。これらの研究結果を統合するため、直感的認知システムと熟慮的認知システムを区別した2元システム理論に基づいた研究を行った。本研究では、不誠実な行動を控えようとしている人には、“落ち着いて考えるのに十分な時間”と“利己的で非倫理的な行動を正当化できない状況”が必要になるといった仮説を設定した。参加者は、一人で報酬を決めるためのサイコロを振る“カップを用いたサイコロ振り課題”を行った。実験では、参加者がサイコロの目を報告する時間(短い条件・時間制限なし条件)を操作した。その結果、自己利益を追求する自動的な傾向は、考える時間が十分にあり、嘘をつくための個人的な正当化ができない場合には嘘をつかなくなっていた。

●文献情報
Shalvi, S., Eldar, O., & Bereby-Meyer, Y. (2012). Honesty requires time (and lack of justification). Psychological Science, 23(10), pp.1264-1270.

以下、ざっくり内容紹介


  • 嘘をつかないためには自己制御資源が必要であるといった多くの先行研究から、人は基本的には自己利益を追求してしまう傾向があることを想定した研究です。
  • つまり、嘘をつきたくなる状況でタイムプレッシャーがある場合には、人は嘘をつくやすくなるだろうといった仮説を立て研究を進めています。
  • また、著者達の先行研究では、嘘をつく行為を自分で正当化できる状況の場合、人は嘘をつきやすくなることが示されています。


  • 具体的には自分しかサイコロの目を知りえない状況で、3回振った後に“最初の目の結果のみ”を報告するときと、1回だけ振った後に報告するときでは、後者の方が嘘をつきにくいことが示されています。3回振った場合には最初よりも望ましい結果がでる可能性があり、その場合は嘘をつくための正当化が行えるという仮説を検証しています。
  • 実験は上記のサイコロ振り課題を用いて、タイムプレッシャー条件(あり・なし)を設けています。あり条件では3回振った結果を20秒以内に報告、なし条件では時間制限がありませんでした。
  • 実験1は正当化ができる状況(3回振って最初の目だけ報告)が設定されていました。実験の結果は下記の図の通りです。タイムプレッシャー条件によらず、サイコロの目の分布には偏りが見られ、低い目よりも高い目を報告する人が多くなっていました。つまり、確率論的に考えると嘘をついていたことが示唆されます。
図1 実験1の結果
※数値は論文からの目測なので正確ではありません。
  • 実験2は正当化ができない状況(1回だけ振る)が設定されていました。実験の結果は下記の図の通りです。タイムプレッシャーなし条件では分布に偏りは見られませんでしたが、タイムプレッシャーあり条件では分布に偏りが見られ、低い目より高い目を報告する人が多くなっていました。
図2 実験2の結果
※数値は論文からの目測なので正確ではありません。
  • また、両実験で感情も測定していましたが、実験2においてのみサイコロの目を高く報告した人ほど、ネガティブ感情が高くなっていました。著者たちは、嘘が正当化できないと嘘をつくときのネガティブ感情が高くなる可能性を主張しています。
  • 以上の結果から、人は利益を得るために嘘をつきたくなる状況では嘘をつくことが初期設定ですが、十分に考える時間があれば、嘘をつかずに誠実に対応できることが示唆されました。
  • 最近の自発的に嘘をつかせる課題は、実際に嘘をついていたかを問題にせずに、確率論的に嘘が生じていたことを想定するものが多いようです。倫理的な問題があると思いますが、実際に嘘をついていたかの確認が取れた方がいいのかなと思いました。

2014/08/22

【研究紹介20】午前中はたいていの人が善良である:時刻が非道徳的行動に与える影響(Psychological Science, 2013)

Abstract(ざっくり和訳)
人は午後より午前中の方が善良だろうか?この問の答えを得るために本研究では、普段の日常的な活動が自己制御資源を消耗させるといった仮説を設定し、4つの実験を行った。その結果、午後より午前中に実験者を欺くことが可能な課題を行った場合、アメリカの大学生と一般成人は嘘をつかなかった。また、この午前中の規範遵守効果(morning morality effect)には、自己制御資源が消耗することで道徳的規範意識が気づかないうちに低下し、嘘をつくようになるといった部分媒介モデルが成立することが示された。さらに、午前中の規範遵守効果は、道徳意識の高い普段は善良な人に対して強い影響を持っていた。つまり、道徳意識の高い人は午前中よりも午後に嘘をつくようになっていた。道徳意識の低い人には、この効果の影響が見られなかった。したがって、時刻といったありふれた要因が道徳的規範を遵守する行動に対して重要な意義を持つことが示された。

●文献情報
Kouchaki, M., & Smith, I. H. (in press). The morning morality effects: The influence of time of day on unethical behavior. Psychological Science


以下、ざっくり内容紹介(少し長いので興味がある方はご覧ください)。


  • 自己制御資源は有限であり、消耗した場合にはゆっくり休む、寝るなどしないと回復しないといった自己制御資源の耐久力モデル(strength model of self-regulation)の考えに基づいた研究です。



  • 通常このモデルは自己制御資源を消耗する特定の要因(認知課題、睡眠不足など)を想定していますが、この研究では朝起きてから寝るまでに普通に生活するだけでも、自己制御資源は消耗することを想定した研究です。
  • 確かに、朝起きてから寝るまでに様々な認知活動、意思決定をしているので自己制御資源は消耗しているはずですね。実際に単純な意思決定でも自己制御資源が消費されることが先行研究で示されています。



  • この研究では、朝は自己制御資源が豊富なので非倫理的な行動をとりにくいが、午後になると資源が消耗してくるので非倫理的な行動を取りやすくなることを仮説にして4つの実験を行っています。実験1と2は大学生が対象で、実験3と4は一般成人が対象です。また実験3と4はWeb上で実施されています。
  • また、この朝は道徳的な行動を取りやすい効果(the morning morality effect)には、道徳からの解放(moral disengagement)が影響を与えることを想定しています。道徳からの解放は、Bandura先生が提唱している概念です。非道徳的な行動を「そんなに非道徳的ではない」と認知を歪めることで罪悪感などのネガティブ感情が生起しにくくなり、実際に非道徳的な行動をとる傾向を示します。
  • 実験1から4では、実験者に気づかれるリスクを負うことなく嘘をつくことが可能な課題が設定されていました。その結果、一貫して午前よりも午後に嘘をつくことが示されました。
  • また、実験2の結果から日常生活による自己制御資源の消耗は、無意識的な道徳に対する気づきを低下させ、その結果として嘘をつくようになるといった間接効果が得られています(ただし、部分媒介モデル)。
  • さらに、実験4の結果から、朝は道徳的な行動を取りやすい効果と、道徳からの解放の個人差には交互作用が見られ、道徳から解放されていない人(つまり、道徳が高い人)は、午前中は道徳的な行動をとることができるが、午後になると道徳から解放されている人(つまり、道徳が低い人)と同程度に非道徳的な行動をとるようになっていました。
  • 非道徳的な行動をとる人は、午前も午後も同じくらい非道徳的な行動をとっていました…。図にすると下記のような感じです。
※数値は目測したので正確ではありません。
  • この研究のポイントは普段は善良な人の方が、道徳的な行動に対して時刻の影響を強く受けてしまうということです。しかも、厄介なのは本人がこの効果を意識していないことでしょう。
  • 今回の研究から、誠実な人から本当のことを言ってもらいたいときは、午後よりも午前中に話を聞くのが良いと考えられます。