人は午後より午前中の方が善良だろうか?この問の答えを得るために本研究では、普段の日常的な活動が自己制御資源を消耗させるといった仮説を設定し、4つの実験を行った。その結果、午後より午前中に実験者を欺くことが可能な課題を行った場合、アメリカの大学生と一般成人は嘘をつかなかった。また、この午前中の規範遵守効果(morning morality effect)には、自己制御資源が消耗することで道徳的規範意識が気づかないうちに低下し、嘘をつくようになるといった部分媒介モデルが成立することが示された。さらに、午前中の規範遵守効果は、道徳意識の高い普段は善良な人に対して強い影響を持っていた。つまり、道徳意識の高い人は午前中よりも午後に嘘をつくようになっていた。道徳意識の低い人には、この効果の影響が見られなかった。したがって、時刻といったありふれた要因が道徳的規範を遵守する行動に対して重要な意義を持つことが示された。
●文献情報
Kouchaki, M., & Smith, I. H. (in press). The morning morality effects: The influence of time of day on unethical behavior. Psychological Science
以下、ざっくり内容紹介(少し長いので興味がある方はご覧ください)。
- 自己制御資源は有限であり、消耗した場合にはゆっくり休む、寝るなどしないと回復しないといった自己制御資源の耐久力モデル(strength model of self-regulation)の考えに基づいた研究です。
- 通常このモデルは自己制御資源を消耗する特定の要因(認知課題、睡眠不足など)を想定していますが、この研究では朝起きてから寝るまでに普通に生活するだけでも、自己制御資源は消耗することを想定した研究です。
- 確かに、朝起きてから寝るまでに様々な認知活動、意思決定をしているので自己制御資源は消耗しているはずですね。実際に単純な意思決定でも自己制御資源が消費されることが先行研究で示されています。
- この研究では、朝は自己制御資源が豊富なので非倫理的な行動をとりにくいが、午後になると資源が消耗してくるので非倫理的な行動を取りやすくなることを仮説にして4つの実験を行っています。実験1と2は大学生が対象で、実験3と4は一般成人が対象です。また実験3と4はWeb上で実施されています。
- また、この朝は道徳的な行動を取りやすい効果(the morning morality effect)には、道徳からの解放(moral disengagement)が影響を与えることを想定しています。道徳からの解放は、Bandura先生が提唱している概念です。非道徳的な行動を「そんなに非道徳的ではない」と認知を歪めることで罪悪感などのネガティブ感情が生起しにくくなり、実際に非道徳的な行動をとる傾向を示します。
- 実験1から4では、実験者に気づかれるリスクを負うことなく嘘をつくことが可能な課題が設定されていました。その結果、一貫して午前よりも午後に嘘をつくことが示されました。
- また、実験2の結果から日常生活による自己制御資源の消耗は、無意識的な道徳に対する気づきを低下させ、その結果として嘘をつくようになるといった間接効果が得られています(ただし、部分媒介モデル)。
- さらに、実験4の結果から、朝は道徳的な行動を取りやすい効果と、道徳からの解放の個人差には交互作用が見られ、道徳から解放されていない人(つまり、道徳が高い人)は、午前中は道徳的な行動をとることができるが、午後になると道徳から解放されている人(つまり、道徳が低い人)と同程度に非道徳的な行動をとるようになっていました。
- 非道徳的な行動をとる人は、午前も午後も同じくらい非道徳的な行動をとっていました…。図にすると下記のような感じです。
※数値は目測したので正確ではありません。
- この研究のポイントは普段は善良な人の方が、道徳的な行動に対して時刻の影響を強く受けてしまうということです。しかも、厄介なのは本人がこの効果を意識していないことでしょう。
- 今回の研究から、誠実な人から本当のことを言ってもらいたいときは、午後よりも午前中に話を聞くのが良いと考えられます。