2015/04/28

【研究紹介34】自益的な正当化:悪事と道徳(Current Directions in Psychological Science, 2015)

Abstract(ざっくり和訳)
“普通の”人の道徳的でない行動は、社会的・個人的に重要な課題を提起している。本稿では、道徳に非常に価値を置いている人の意図的な道徳的でない行動に関して急速に拡張している研究を構築し、促進するための自益的な正当化の役割に重点を置いた新しい枠組みを提示したい。人が意図的に道徳的でない違反を行う前後に生じる自益的な正当化は、自分の道徳的な側面に対する脅威を緩和している。この正当化により、道徳を感じつつも悪いことを行える。違反を行う前の正当化は、問題のある行動を申し訳のたつ行動に再定義することによって、自分の道徳的な側面に対して予期される脅威を軽減している。違反を行った後の正当化は、違反を調和するか、軽減する償いによって、自分の道徳的な側面に対して経験された脅威を緩和している。本稿では、悪いことをしつつ道徳を感じることを促す心理的なメカニズムに焦点を当て、道徳的でない行動の自益的な正当化の時系列的な次元に関する将来的な研究の方向性について示唆した。

●文献情報
Shalvi, S., Gino, F., Barkan, R., & Ayal, S. (2015). Self-serving justifications: Doing wrong and feeling moral. Current directions in Psychological Science, 24(2), pp.125-130.

以下、ざっくり内容紹介。
  • これまでの研究では“普通の”人の道徳的でない行動があまり注目されていませんでしたが、近年はこの分野の研究が心理学、経済学等で盛んに行われています。この論文はこれまでに実施されてきた研究を簡単にレビューし、普通の人の道徳的でない行動を説明する重要な概念として“自益的な正当化(self-serving justification)”を提案しています。
  • 普通の人の道徳的ない行動の研究は、その行動が意図的であったか、意図的でなかったかを分けて研究していますが、この論文では意図的なものを主に対象にしています。
  • 自益的な正当化は“問題のある行動に理由を与え、非道徳性を低減する過程”と定義されています。また、自益的な正当化には道徳的でない行動をする“前”と“後”でメカニズムが異なることを仮定しています。
  • 道徳的でない行動をする前の正当化に関わる要因としては、(1)状況の曖昧性、(2)自益的な利他性、(3)道徳のライセンスを挙げていました。
  • 道徳的ない行動をした後の正当化に関わる要因としては、(1)洗浄、(2)罪の告白、(3)道徳的ない行動から距離をとるを挙げていました。
  • これらの要因は全て非道徳的な行動の非道徳性を低減させることに寄与していることが先行研究で示されています。詳しい内容は本文をご参照ください。
  • おもしろかったのが、(1)洗浄に関する研究です。自分が非道徳的でない行動をしたことを想起させたときに、洗浄用のティッシュで手をふくと罪悪感が低下したそうです。
  • 最後に今後の研究の方向性として、(1)個人差、(2)現在と将来の志向性、(3)時系列的な正当化の必要性、(4)非道徳的な行動を起こさせないための介入法を挙げていました。特に(4)は非道徳的な行動をする前は介入しやすいが、行動をした後の介入について課題があることが示されていて興味深かったです。