楽しさ・真正さ・自然さ・強さなどの他者の笑顔を評価する場合、評価者は対象者の目尻を下げる眼輪筋の活動を頼りにすることが多い。それでは、このような“本当”の笑顔を示す手がかりは、魅力・知性・優位性・信頼性などの人の特徴といったより一般的な判断に関しても影響を持つのだろうか。この疑問を検討するために、本研究では24人(男性12人・女性12人)の“本当”の笑顔と“嘘”の笑顔を呈示し、笑顔とその人の特徴について48人の参加者に評価させた。その結果、“本当”の笑顔を示す手がかりがある場合には、楽しさ・真正さ・自然さ・強さといった笑顔の評価は全て高くなっていた。その一方で、人の特徴の評価に関しては笑顔の効果に不均一な影響が見られた。“本当”の笑顔を示す手がかりがある場合には、魅力・優位性・知性の評価は増加していたが、信頼性の評価は影響が見られなかった。これらの結果から、対象となる人の社会的参照としての“本当”の笑顔を示す手がかりは、検討中の特徴のタイプによって異なることが示唆された。
●文献情報
Quandflieg, S., Vermeulen, N., & Rossion, B. (2013). Differential reliance on the Duchenne marker during smile evaluations and person judgments. Journal of Nonverbal Behavior, 37(2), pp.69-77.
以下、ざっくり内容紹介
- “本当”の笑顔と“嘘”の笑顔の評価について検討しています。それぞれの顔を見せて、笑顔自体の評価(楽しさ・真正さ・自然さ・強さ)と、その人の特徴の評価(魅力・知性・優位性・信頼性)をさせています。著者たちの興味関心は“本当”の笑顔は、その人の特徴の評価に影響を持つかどうかです。
- “本当”の笑顔と“嘘”の笑顔に関しては様々な文献で取り上げられていますが、心からの笑顔は目じりが下がることが指摘されています。【こちらのサイト】に非常にわかりやすい画像がアップされています。Duchenne smileが“本当”の笑顔、non- Duchenne smileが“嘘”の笑顔です。
- Duchenne smileは心からの笑顔として扱われてきましたが、こちらは最近さまざまな議論があるようです。興味がある方は以下の文献をご参照ください。必ずしも目尻が下がることが本当の笑顔を示すわけではないという主張もあるようです。
- 実験は非常に単純です。参加者は24人の“本当”の笑顔と“嘘”の笑顔の写真を見て、笑顔自体に関する評価とその人の特徴に関する評価を9件法(1:まったくない~9:非常にある)で行っています。写真の半分は女性でした。
- ただし、先行研究と比較して“本当”の笑顔と“嘘”の笑顔の統制が厳密です。従来の研究では“本当”の笑顔と“嘘”の笑顔は目じりだけでなく、口元の強度も異なったものが多かったためフォトショップで加工を行い、異なるのは目じりの手掛かりだけにしてあります。またディストラクター刺激として口元の強度が異なる写真も入れてありました。
- 笑顔自体の評価とその人の特徴の評価について、笑顔別に相関を算出しています。その結果、笑顔自体の評価間と特徴の評価間には高い相関が見られました。その一方、笑顔自体の評価と特徴の評価にはほとんど相関が見られず、笑顔の真正さ・自然さと信頼性にのみ有意な正の相関が見られています。
- また、笑顔の種類を参加者内要因として笑顔自体の評価とその人の特徴の評価に対してMANOVAを行っています。その結果、笑顔自体の評価に関しては“嘘”の笑顔よりも“本当”の笑顔は楽しさ・真正さ・自然さ・強さが全て高くなっていました(図1)。
図1 笑顔別の笑顔自体の評価
- その一方、その人の特徴の評価に関しては“嘘”の笑顔よりも“本当”の笑顔は魅力・知性が高く、優位性は高い傾向が見られました(図2)。
図2 笑顔別のその人の特徴の評価
- 以上の結果から、笑顔自体の評価は“本当”の笑顔と“嘘”の笑顔の手掛かりの影響を強く受けるが、その人の特徴の評価はこの手がかりがあるかよりも、その笑顔を見たときに真正さや自然さを感じるかに影響を受ける可能性を議論していました。
- 【研究紹介26】では真顔と笑顔の信頼性に関する評価に性差が見られ、女性は笑顔の人の信頼性を高く評価することが示されていました。こちらの結果も踏まえると、愛想笑いでもいいので笑顔を向けた方が信頼性は高く評価されると考えられます。