社会的認知研究によると、真顔の人よりも笑顔の人はさまざまなコミュニケーション特性についてより好意的に認知されることが示されている。また、習慣的な笑いに関する性差の研究によると、女性は男性よりも日常的に笑顔を見せることが示されている。そこで、本研究では男性よりも女性は笑顔の人をより誠実な人として認知するといった仮説について検証を行った。本研究は不確実性の回避(uncertainty avoidance)の程度が異なる7か国で実施した。参加者(女性・男性)は笑顔と真顔の人の写真を見て、その人の誠実性を評価した。真顔の人の誠実性に関して性差は見られなかったが、笑顔の人の誠実性に関して男性よりも女性は高く評価していた。したがって、性別は笑顔の人の誠実性の認知に影響を与えることが示唆され、社会規範の観点から考察を行った。
●文献情報
Krys, K., Hansen, K., Xing, C., Espinosa, A. D., Szarota, P., & Morales, M. F. (in press). It is better to smile to women: Gender modifies perception of honesty of smiling individuals across culture. International Journal of Psychology.
以下、ざっくり内容紹介
- 笑顔の人の誠実性の評価に性差があることを示した研究です。実験は7か国(中国・ドイツ・メキシコ・ノルウェー・ポーランド・南アフリカ共和国・アメリカ)で実施して、文化差についても検討しています。明確な文化差は確認されていませんが、ドイツ・メキシコ・ノルウェー・ポーランドの男性参加者は、誠実性に対する笑顔の効果が見られませんでした。
- 先行研究から笑顔は誠実性のシグナルであり、笑顔の人は誠実性や社会性などのコミュニケーション特性についてより好意的に認知されることが示されています。また、男性よりも女性は笑顔の表出が多く、非言語的手がかりの解読能力が優れていることが示されています。
- 以上のような知見から、今回の研究では男性よりも女性は笑顔を表出している人の誠実性を高く評価するだろうといった仮説を検証しています。
- 実験は非常に単純です。笑顔の人と真顔の人の写真を見せて、誠実性に関する4つの特性(honesty, authentic, unnatural, and false)を7件法(1:特性はまったくあてはまらない~7:特性が完全にあてはまる)で評価させていました。
- 実験計画はやや複雑です。「写真の表情(笑顔・真顔)」×「写真の人の性別(男性・女性)」×「参加者の文化(7か国)」×「参加者の性別(男性・女性)」の4要因でした。前2つが参加者内、後ろ2つが参加者間要因でした。
- 4要因の分散分析の結果、「写真の表情」「参加者の文化」「参加者の性別」の主効果が有意でした。細かい結果は本文をご覧ください。なぜか「参加者の文化」だけ下位検定されていませんでした…。
- 「写真の表情」×「参加者の性別」の交互作用が有意でした。男性、女性の参加者の両方が真顔よりも笑顔の人の誠実性を高く評価していました。また、真顔の人の誠実性の評価に差が見られなかった一方、笑顔の人に対して男性よりも女性は誠実性を高く評価していました(図1)。
図1 参加者の性別・写真の表情別の誠実性の評価
- 「写真の表情」×「写真の人の性別」の交互作用も有意でした。笑顔の人は男性と女性ともに誠実性が高く評価されていましたが、真顔の人は男性よりも女性の誠実性が高く評価される傾向が見られました(図2)。
図2 写真の人の性別・写真の表情別の誠実性の評価
- 「参加者の文化」×「参加者の性別」の交互作用も有意でした。上述したように、特定の国の男性には誠実性に対する笑顔の効果が見られませんでした。
- 図1と図2を見ると笑顔の効果はそんなに大きくなく見えますが、論文の表1に掲載されている効果量を見ると参加者が女性のときはd = .52~.74、男性のときはd = -.00~.49となっており、中程度くらいの効果は見られるようです。
- 真顔において女性の誠実性が高く評価される傾向について社会規範の観点から考察されています。以上の結果から、女性には笑顔で接した方がよいようです。