2014/10/24

【研究紹介26】行為の悪さが重要?真実と嘘に対する子どもの初期の理解に行為の悪さが与える影響(Journal of Experimental Child Psychology, 2012)

Abstract(ざっくり和訳)
小さい頃に子どもがつく嘘には悪い行動が含まれることが多い(黙ってお菓子を食べたときに「食べてない」と嘘をつくなど)。そのため、子どもは悪いこと以外をしたときにつく嘘よりも、悪いことをしたときにつく嘘を“嘘”として認識しやすいことが主張されてきた。ただし、この仮説はこれまで直接検討されていない。そこで、本研究ではこの仮説について検証を行った。実験1では、3から5歳の子ども67人が、登場人物が良いことか悪いことをした後に、本当か嘘のことを話す物語を見た。その結果、子どもの真偽判断にはバイアスが見られ、良い行動をした登場人物は真実を話しており、悪い行動した登場人物は嘘をついていると考えられていた。実験2では、4から6歳の子ども51人が、登場人物が良いことか悪いことをしたかについて、その行為を認めるか否定する物語を見た。その結果、登場人物が良いことをしていた場合、子どもは真実と嘘を判別しやすかった。これらの結果から、幼児は悪い行為全般を嘘として認識し、良い行為全般を真実として認識しやすいとった過般化(overgeneralization)を行っていると考えられる。そして、発達するとともに徐々に行為の“良し悪し”と“誠実性”の区別を行うことが可能になることを示唆している。したがって、幼い頃の子どもに嘘の意味を理解しているかを検証するためのシナリオに“悪い”行為が含まれていることは、子どもの真偽判断の能力を過小評価している可能性がある。

●文献情報
Wandrey, L., Quas, J. A., & Lyon, T. D. (2012). Does valence matter? Effects of negativity on children’s early understanding of the truth and lies. Journal of Experimental Child Psychology, 113(2), pp.295-303.

以下、ざっくり内容紹介
  • 子どもの嘘と真実の理解について研究しています。Piaget先生のころから研究が始まっているそうですが、司法場面における子ども証言の有効性を検証するためにも重要な研究領域になっているようです。
  • 今回の研究では、子どもが主張の真偽に関わらず、行為の“良し悪し(valence)”にひっぱられて真偽判断をしている可能性について検証しています。先行研究から子どもは悪い行為を“嘘”として認識しやすい可能性が示されていましたが、この点についてしっかりと研究されていませんでした。
  • ちなみ、子どもが幼い頃につきはじめる嘘は、悪いことをしたときの否認だそうです。




  • 実験1では、子どもに登場人物が良い行為か悪い行為をした後に、本当か嘘を言うシナリオを読ませています。このシナリオが若干複雑です。全部で6種類のシナリオが用意されていました(表1)。他の可能性をつぶすためだと思いますが、現実的にはあまりメリットのないもの(悪い行為→嘘:別の悪い行為、良い行為→嘘:悪い行為、良い行為→嘘:別の良い行為)がありました。

表1 実験1のシナリオの構成



  • また、真偽判断をするときの質問法を変えています。子どもに真偽を尋ねるときに「本当だと思うか?」か「嘘だと思うか?」で質問して、はい・いいえで回答させています。
  • 結果としては、3・4歳児よりも5歳児の正答率が高くなっていました(図1)。また、シナリオによる違いも見られ、“良い行為→真実:良い行為”“良い行為→嘘:悪い行為”“悪い行為→真実:悪い行為”の正答率はチャンス・レベルよりも高くなっていました(図2)。


図1 年齢別の正答率



図2 シナリオ別の正答率
※論文から読み取ったために値は正確ではありません。


  • また、年齢ごとに細かく分析してみると5歳児は“良い行為→嘘:別の良い行為”以外は全てチャンス・レベルよりも正答率が高く、4歳児は“良い行為→真実:良い行為”のみチャンス・レベルよりも正答率が高く、3歳児は全てのシナリオでチャンス・レベルよりも正答率が低くなっていました。
  • 実験2では、実験1のシナリオが複雑だったことから、より単純にしたものを用いて子どもが嘘=悪い行為と認識しやすいかについて検討しています。
  • 実験2のシナリオでは2人の登場人物が良い行為か悪い行為をした後に、どちらか一方は真実を言い、どちらか一方は嘘を言う内容になっていました。子どもには「本当のこと言っている子はどちら?」か「嘘を言っている子はどちら?」で質問して、はい・いいえで回答させています。
  • 結果としては、年齢が上がるにつれて正答率が高くなっていました(図3)。また、登場人物が悪い行為よりも良い行為をしていたときに正答率が高くなっていました(図4)。


図3 年齢別の正答率



図4 行為の良し悪し別の正答率

  • さらに子どもの性別と行為の良し悪しに交互作用が見られています(図5)。女児は登場人物が悪い行為をしたときの正答率ががくっと落ちていました。そして、子どもの年齢と質問の仕方にも交互作用が見られています(図6)。4.5~5.5歳時のときには「本当のことを言っている子はどちら?」と聞いた方が正答率が高くなっていましたが、5.5歳~6歳児になるとどちらの質問でも同じくらいの正答率になっていました。


図5 子供の性別・行為の良し悪し別の正答率



図6 子供の年齢・質問法別の正答率


  • 上記のような結果から、著者たちは子どもが悪い行為=嘘と認識しやすいバイアスがあると主張しています。そのため、子どもの嘘・真実の理解を検証するためには悪い行為が含まれないシナリオを用いることを推奨していました。
  • 性差や質問法に関する考察は一切されておりません。この結果がけっこうおもしろいと思うのですが…(感想)。