特定の動作は思考の内容やプロセスに影響を与えることが報告されている。本研究では、心臓の上(左胸)に手をおく動作が誠実性の認知と関連があることが示された。実験1において、両手をおろした人の写真よりも、左胸に手をおく動作をした人の写真はライ・スケールで使用される内容に関する記述の信頼性を高く評価されていた。実験2において、両手をおろした人よりも、自身の左胸に手を置く動作をした人は自分に知識がないことを潔く認めていた。これらの結果から、自身の左胸に手を置く動作などの誠実性の抽象的な概念に関連する身体経験は、他者に対する認知や自身の行動の両方に影響を与えるといった先行研究の主張を再現し、拡張するものであった。
●文献情報
Parzuchowski, M., Szymkow, A., Baryla, W. & Wojciszke, B. (2014). From the heart: Hand over heart as an embodiment of honesty. Cognitive Processing, 15(3), pp.237-244.
以下、ざっくり内容紹介
- 身体化された認知に関する研究です。この研究では心臓の上(左胸)に手をおく動作が誠実性を高めることを示しています。もっと細かい検討は他のジャーナルで行っています。
- この研究の興味深いところは、他者が左胸に手をおく動作をしているのを見ると、その人の誠実性の評価が高まることを示しています(研究1)。
- おもしろい身体化された認知の先行研究が紹介されていました。中指を立てながら曖昧な印象に記述された人の文章を読むと、その人が敵意を持っていると評価するようです。
- 左胸に手をおく動作は、イギリス英語・ドイツ語・ポーランド語・ロシア語などで誠実性と関連性が深いそうです。そのため、今回の研究ではこの動作着目しています。
- 研究1では左胸に手を置いている人の写真と、同じ人で両手をおろしている人の写真を見て、その人のことを記述した12個の文を読んでいます。最初の4つは名前や年齢など疑いようのない文章でした。そして、残りの8つは社会的望ましさ尺度で使用されているような理想的すぎる文章でした。
- 参加者は各文について7件法(1:まったく信頼できない~7:非常に信頼できる)で評価しています。8つの疑わしい文章に対する評価の平均値を条件間で比較しました(図1)
図1 動作別のうそっぽい文章に対する信頼性の評価
- その結果、有意な差が見られ、左胸に手を当てた写真の方が誠実性を高く評価されています。効果量はd = .57なのでCohenの基準によると中程度の大きさです。ただし、平均値は中点(4)近くなので、誠実性の評価を大きく高めるというわけではなさそうです。
- 研究2では実際に左胸に手を当てたときと、左のお尻に手を当てたときの誠実性について検討しています。この実験では、どちらかの動作をしながら心理学者の名前とその人が提唱している理論を知っているかどうか(熟知性)について評価しています。
- この理論は本当にあるものを3つ、それっぽい理論を作った嘘の理論を8つ用意していました。参加者は7件法(1:絶対知らない~4:分からない~7:絶対に知っている)で各理論について評価しています(図2)。
図2 動作・理論の真偽別の熟知性の評価
- 動作(左胸・お尻)×理論の真偽(本当・嘘)を要因とした分散分析を行ったところ、理論の真偽の主効果が見られました。嘘の理論よりも、本当の理論の方が熟知性を高く評価していました。
- また、動作と理論の真偽に交互作用が見られ、本当の理論の評価に動作の影響は見られないが、嘘の理論を評価しているときには動作の影響が見られていました。つまり、嘘の理論を評価しており、左胸に手を当てているときは熟知性の評価が低くなっていました。
- こちらの結果も少し注意が必要です。嘘の理論の平均値は中点(4)以下なので、知らないと回答していた人が多いと思われます。また、今回の評定尺度では中点をわからないにしていることが少し問題な気がします。知らない理論に対して、絶対に知らない(1)と答えることも誠実ですし、分からない(4)と答えることも誠実だからです。
- 以上の結果から左胸に手を当てるといった動作が誠実性に影響を与えることが示されました。著者達もやんわり指摘していますが、文化による影響が大きそうですね。日本の場合はサッカー選手などが国家斉唱しているときに胸に手を当てていますが、あまり見られない行動のような気がします。
- 日本だとお辞儀などがこの動作にあたるでしょうか。お辞儀と誠実性の研究をしてみてもおもしろそうです(感想)。