嘘をつかれているときの生理心理的反応を検討するために事前実験を行った。社会的認知と虚偽検出に関する研究を橋渡しするために、本研究では真実を話す人よりも嘘をつく人を観察しているときに、観察者の指の皮膚温が低下するといった仮説を設定した。参加者は最初に2人の映像を見た後に直接的・間接的な真偽性を判断するように依頼された。その後に、これから見る映像の人は嘘をついている可能性があることを教示された上で、2人の映像を見て直接的・間接的な真偽性を判断するように依頼された。実験中は指の皮膚温が測定されていた。皮膚温に関する知見は、仮説の一部を支持する結果であった。具体的には、参加者が嘘をつく人を観察しているときは、嘘をついている可能性の示唆に関わらず、平均的な皮膚温が低下し続けていた。嘘をついている可能性を示唆された場合には、嘘をつく人よりも真実を話す人を観察しているときの平均皮膚温が高くなっていた。しかしながら、嘘をついている可能性が示唆されていない場合には、真実を話す人よりも嘘をつく人を観察しているときの平均皮膚温が高くなっていた。間接的な虚偽検出の指標に関する仮説も実証され、真実を話す人よりも嘘をつく人は好ましさと信頼性の評価が低下していた。好ましさよりも信頼性の効果量が大きくなるといった仮説は支持されなかった。さらに、嘘をつく人の直接的な判断をしているときはチャンス・レベルの成績に留まるといった仮説が指示された。直接的・間接的な真偽性判断間の真実性バイアスと関連性について探索的な分析を行った。生理心理的指標を用いた虚偽検出に関連した将来的な研究の限界と方向性に関して議論を行った。
●文献情報
van’t Veer, A. E., Gallucci, M., Stel M., & van Beest, I. (2015). Unconscious deception detection measured by finger skin temperature and indirect veracity judgments- results of a registered report. Frontiers in Psychology, 6, 672.
以下、ざっくり研究紹介。
- 研究紹介12のvan’t Veer et al. (2014) のregistered report の結果の論文です。身体化された認知(embodied cognition)を虚偽検出に応用できないかを検討した研究で、先行研究から著者らは皮膚温に着目していました。
- 細かい仮説は本文をご覧ください。主要な仮説としては、真実を話す人よりも嘘をつく人を観察しているときに皮膚温が低下することでした。
- 実験は単純で映像中の人を見て、その人の話す内容の真偽性判断を行っています。真偽性判断には、間接的な真偽性判断と直接的な真偽性判断を行わせていました。間接的な真偽性判断はその人の印象(好ましさ・信頼性)を7件法で尋ねています。直接的な真偽性判断は、その人が嘘をついているかどうかを2件法(ついている・いない)で尋ねています。
- 実験では参加者の疑惑の影響を検討するために、最初の2人の映像を見せるときには何も言わず、後の2人の映像を見せるときには“その人が嘘をついている可能性がある”ことを教示していました。
- 実験の結果は大変興味深いもので、疑惑の有無によって皮膚温の変化が異なっていました(図1)。疑惑がない条件では、嘘をつく人よりも真実を話す人を観察しているときに指の平均皮膚音が低下していました。その一方で、疑惑がある条件では真実を話す人よりも嘘をつく人を観察しているときに指の平均皮膚温が低下していました。したがって、疑惑がある条件でのみ仮説が支持されていたと言えます。
図1 疑惑条件と観察対象者別の皮膚温の変化
注)目分量なため値は不正確
- 疑惑の有無によって真実を話す人と嘘をつく人を観察しているときの皮膚温の逆転についてはあまり考察されていませんでした。今後の研究に期待するみたいな感じです。
- 間接的な真偽性判断に関しては、疑惑の有無に関わらず、真実を話す人よりも嘘をつく人で好ましさと信頼性が低下していました(図2)。ただし、疑惑がある条件のときの方が、低下する程度が顕著になっていました(図2)。
- 過去の研究フォーラムで間接的な指標や直感レベルでは嘘を見抜くことができるかもといった研究を紹介していますので、そちらもご参照ください。
- 疑惑がない条件のときの直接的な真偽性判断では、先行研究と同様に正答率はチャンス・レベル程度でした(約53%)。こちらの結果はレビュー論文と同様でかなり頑健だと思います。少し古くなってしまいましたが、虚偽検出の包括的なレビューは以下の論文が有名です。
- 不思議な結果としては疑惑がある条件の直接的な真偽性判断では、チャンス・レベルよりも正答率が高くなっていたことです(約57%)。探索的な分析を行い、この正答率の上昇は真実性バイアスの低下が理由ではないことを示しています。著者たちは練習効果の影響かもと考察していましたが、この理由についてはさらなる検討が必要だと考察していました。
- 全体的に興味深い研究なのですが、実験手続き上の課題がいくつかあるような気がしています。特に疑惑の操作に関しては参加者内要因ではなく、参加者間要因にした方がよいかと思いました。特に教示はしていませんが、直接的な真偽性判断をさせている段階で人によっては疑惑を持つと思いました(感想)。
- また、全て参加者内計画であり、参加者が150名程度だったことから個人差がかなり大きそうな感じがします(感想)。