2014/12/12

【研究紹介32】他者の利益のために嘘をつく人を子どもは信頼する(Journal of Experimental Child Psychology, in press)

Abstract(ざっくり和訳)
本研究では、嘘をつく人の信頼性を判断するときに、嘘をついたときに得られる利益を子どもが考慮するかどうかについて検討した。2つの実験(参加者計214人)を行った結果、6から11歳の子どもは、相手の利益のために嘘をつく人を信頼し、自分の利益を得るための嘘をつく人は信頼していなかった。その一方で、利益を享受する対象に関わらず、真実を伝える人を信頼していた。相手の利益のために嘘をつく行為自体は道徳的に良いことではないと考えているにも関わらず、子どもはこのような人たちを信頼していた。これらの結果から、子どもは他者の信頼性の評価するときに、話し手の証言の真実性と利益の享受者の両方を考慮しており、行動が道徳的に受容できるかどうかは信頼性の評価の前提条件ではないことが示された。

●文献情報
Fu, G, Heyman, G. D., Chen, G., Liu, P., & Lee, K. (in press). Children trust people who lie to benefit others. Journal of Experimental Child Psychology.

以下、ざっくり内容紹介。

  • 他者から利用されたり、だまされたりしないように、その人が信頼できるかどうかを判断する能力の発達は非常に重要です。
  • 3歳くらいになると、子どもは他者の信頼性を評価するときに、相手が嘘をついたかどうかを判断基準の一つにするといった知見があります。


  • しかし、全ての嘘が信頼性を損ねるわけではなく、嘘の種類によって信頼性の評価は異なります。たとえば、6から7歳くらいになると、相手の気持ちを傷つけないためにつく嘘よりも、自分の過失に罰を避けるためにつく嘘は悪いものだと理解しています。


  • この研究では、①行為自体の良し悪し、②話し手の情報価(真実・嘘)と、③利益の享受対象(自分のため・相手のため)が、子どもの道徳性と信頼性の評価に与える影響を検討しています。
  • 実験はシナリオ法を用いています。上記①~③を操作したシナリオを作成して、シナリオの主人公について道徳性と信頼性の評価を行わしています。全て2水準なので、2×2×2の8シナリオです。イメージしづらいかもしれないのでシナリオの例を1つ訳しました。

シナリオの例①悪い行為・②嘘・③相手のため
ある日、LiliとHonghongは教室で遊んでいました。そのときにLiliはあやまって花瓶を割ってしまいました。教師が教室にやってきて、とても怒りました。教師は花瓶を割った人に罰を与えなければならないと言い、誰が割ったのかを二人に尋ねました。本当はLiliが花瓶を割ったのだけど、Honghongは自分が割ったと教師に言いました。

  • 実験1には124人の子どもが参加しています。①行為自体の良し悪しは参加者間要因、②話し手の情報価と③利益の享受対象は参加者内要因でした。子どもがシナリオの内容を理解しているかを確認した後に、シナリオの主人公の行為の道徳性を評価させています。そして、主人公の信頼性についても評価させていました。
  • 実験の結果、行為の良し悪しに関係なく、自分のためでも相手のためでも話し手が真実を伝えるときは道徳性が高く評価され、相手のために嘘をつくときは中程度に、自分のために嘘をつくときは低く評価されていました。
  • その一方で、信頼性の評価に関しては、自分のためでも相手のためでも話し手が真実を伝えるときと、相手のために嘘をつくときに高くなり、自分のために嘘をつくときは低くなっていました。年齢によって細かい差がありますが、そちらは本文をご参照ください。
  • したがって、相手のために嘘をつくことは道徳的に良い行為ではないといった理解があるにも関わらず、その人は信頼できると評価されていたことになります。
  • 実験2では実験1の結果を精査するために、相手のために嘘をつくことと、自分のために真実を話すことを比較していました。得られた結果は実験1と同様でした。
  • 総合考察では今回の実験で使用したシナリオの問題や、今回得られた結果の実務的な示唆がまとめられています。
  • 個人的な感想ですが、実験1の①悪い行為、②真実、③相手のためのシナリオが主人公の行った悪い行為を正直に述べているものを“相手のため”にしていることがひっかかります。他人のせいにしなかった点を“相手のため”と扱っていますが、これは操作的定義すぎるかなと思いました。