2014/12/25

【研究紹介33】アメリカと中国における子どもに養育者の言うことを聞かせるための嘘利用行動(International Journal of Psychology, 2013)

Abstract(ざっくり和訳)
114人のアメリカの養育者と85人の中国の養育者を対象に、自分の言うことを聞かせるため自分の子どもに嘘を利用する行動を調査した。養育者のほとんど(アメリカは84%、中国は98%)が、自分の言うことを聞かせるために嘘を利用することを報告した。両国において、自分の子どもが一緒についてくることを拒否した場合に、本当は一人で置いておくつもりはないが、“置いて行ってしまうぞ!”というような嘘をよくついていた。嘘の利用行動には文化差も確認され、アメリカの養育者よりも中国の養育者は自分の言うことを聞かせるための嘘を利用し、この行為を容認していた。本当は上手くピアノを弾けていないのに“上手い、上手い!”といった子どもの肯定的感情を促進するための嘘や、“クリスマスイヴにサンタさんがプレゼントをくれるよ”といったような空想のキャラクターに関連した嘘の利用行動に関して文化差は見られなかった。本研究の結果は、社会文化的な価値や文化間に存在する躾に関連した課題の観点から議論された。

●文献情報
Heyman, G. D., Hsu, A. S., Fu, G., & Lee, K. (2013). Instrumental lying by parents in the Us and China. International Journal of Psychology, 48(6), pp.1176-1184.

以下、ざっくり内容紹介。

  • 養育者は子どもに嘘をついてはいけないと教育する一方で、自分の言うことを聞かせるために嘘を利用することがあります。


  • 本研究では、アメリカと中国の養育者の子どもに言うことを聞かせるための嘘利用行動に関して研究を行っていました。
  • 方法は非常に単純です。事前調査で両国の親が利用しやすいと考える4つのテーマの嘘のシナリオを両国の養育者に読んでもらい、そのような嘘を実際についたことがあるか、そのような嘘を利用することを容認するかについて評価してもらっています。また、自分の子どもがつく嘘を許容するかどうかについても調査しています。
  • 4つのテーマは、食事・移動・逸脱行為・お金に関する内容でした。詳細な内容は本文の表1にまとめられています。
  • その結果、養育者のほとんど(アメリカは84%、中国は98%)が4つのテーマに関する嘘のいずれか一つは利用したことがあることが報告されていました。
  • 両国において最も利用されやすいのは“移動”に関する嘘でした。これは自分の子どもが移動しようとするときについて来なかった場合、“一人で置いておくぞ!”といったような嘘です。次に利用されやすいのは“お金”に関する嘘でした。これは実際には買うつもりはないのに“そのおもちゃは後で買ってあげるからね”といったような嘘です。
  • 嘘の利用行動には文化差が見られ、アメリカよりも中国の養育者は自分の言うことを聞かせるための嘘を利用しており、利用すること自体も容認していました(図1、2)。ただし、図2を見てわかるように平均値は中央値以下であり、見られた差も小さいです。効果量は記載されていないので何とも言えませんが、そこまで大きな差ではないような気がします。

図1 国別の子どもに言うことを聞かせるための嘘の利用頻度
注)値が大きいほど利用頻度が高いことを示す。

図2 国別の子どもに言うことを聞かせるための嘘を利用することに対する容認度
注)値が大きいほど容認していることを示す。
  • また、中国よりもアメリカの養育者は空想上のキャラクターに関する嘘をつくことを容認していました(図3)。さらにアメリカよりも中国の養育者は自分の子どもが嘘をつくことを許容していませんでした(図4)。両国において、子どもの嘘に対する容認も中央値以下です。

図3 国別の空想上のキャラクターに関する嘘をつくことに対する容認度
注)値が大きいほど容認していることを示す。

図4 国別の自分の子どもが嘘をつくことに対する容認度
注)値が大きいほど容認していることを示す。



  • 以上の結果から、子どもに言うことを聞かせるために嘘を利用する行動は文化によらず発生しているが、嘘の種類によって利用頻度や容認の具合が異なることが示唆されたことを考察しています。この他、研究の限界や今後の課題についてかなり長く議論していますので、興味ある方はぜひ本文をご覧ください。