背景
医者に対する調査研究では、患者の症状を良くするためにプラセボ的処方を利用していることが示唆されている。しかしながら、患者の立場からのプラセボ的処方はあまり検討されてこなかった。そのため、プライマリー・ケアの医療現場において患者がプラセボ的処方を受容する状況とその理由、また受容しない状況とその理由を確認することを目的とした質的研究を行った。
方法
本研究を遂行する上で適切な英語話者である58人の成人(男性18人、年齢は19-80歳)が11のフォーカス・グループに参加した。医療現場においてプラセボ的処方を行う医者の仮想シナリオが議論の呼び水として使用された。得られたデータは全て文章に書き下され、質的研究方法に基づいて帰納的に分析された。
結果
参加者は、患者、世話人、医療を提供する人、社会的な観点から、プラセボ的処方のさまざまな害と利益について議論した。その結果、プラセボ的処方に対して大きく2つの立場が確認された。一つは、プラセボ的処方によって得られるかもしれない利益に着目する「結果主義」的な立場である。ある参加者はプラセボ的処方が有益であり、医療現場で使用した方がよいと考えていた。また、プラセボ的処方が心理や身体の相互作用に影響を与えることを想定していた。その一方で、プラセボ的処方には効果がなく、時間やお金の無駄であると考える参加者もいた。二つ目は、プラセボ的処方を行うときには患者に嘘をつくことになり、患者の不利益を強調する「自律性を尊重するべき」立場である。この立場の参加者は、プラセボ的処方には嘘が含まれ、それを利用する医者が信頼できず、患者の自律性が担保できないために、受容できないと考えていた。また、プラセボに影響されやすい人をだまされやすい人と考える傾向にあり、自身がプラセボにかからないように努力していた。全体として、「プラセボ」という用語は「効果がない」ことを意味する言葉として考えられていた。さらに、ある参加者は患者に嘘をつかずに、慎重に言葉を選べばプラセボ的処方を行ってもよいと考えることが示唆された。
結論
プラセボは効果がなく、医者が嘘をつくことになるといった信念によって、プラセボは否定的に捉えられることが示された。プラセボが有効に働く場合にはメカニズムや嘘などの関連するプロセスは重要でないといった実用主義的な観点から、プラセボは肯定的に捉えられることが示された。プラセボやその効果に関する公的な教育や、臨床的実践におけるプラセボ的処方の最適解を求める研究が必要となるだろう。
●文献情報
Bishop, F. L., Aizlewood, L., & Adams, A. E. M. (2014). When and why placebo-prescribing is acceptable and unacceptable: A focus group study of patient’s views. PLos ONE, 9(7), e101822.
以下、ざっくり内容紹介
- 医療現場におけるプラセボ的処方を積極的に有効活用できないかを検討した研究です。活用するにあたって、患者がプラセボ的対処をどのように考えるか質的研究で検討しています。
- 著者たちをファシリテーターとするグループ討議を行っています。議論の呼び水として、4つの仮想シナリオを提示していました。シナリオは①風邪だと思われる患者に説明なしにプラセボ的処方(強壮剤を薬として処方)を行う、②風邪だと思われる患者に説明をした上で医療的な処方は行わない(強壮剤を処方)、③末期がん患者にがんの薬としてプラセボ薬を与える、④新しく開発された風邪薬の効果を検討するために二重盲検法を用いた研究の参加者になってもらうでした。
- プラセボ的処方には症状が改善するといった利益も患者の自律性が阻害されるといった害もあるといった指摘があり、患者の個人差(効きやすさ)や医者との信頼関係も大事などの議論がありました。
- 興味深い結果として、子どもが患者の場合にはプラセボ的処方を行ってもよいと全ての参加者が考えていました。この場合には自律性が尊重されないことよりも、プラセボ的対処による利益の方が優先されていました。
- 医者と患者が「プラセボ」という言葉に持つイメージや内容に乖離が見られる可能性があり、その点を整理していく必要があることが指摘されていました。