2015/05/18

【研究紹介36】ハンドボールにおけるフェイントなしとフェイントありの7 mスローのゴールキーパーの方向予測に知覚的訓練が与える影響(Journal of Sports Sciences, 2015)

Abstract(ざっくり和訳)
本研究では、フェイントなしとフェイントありの7 mスローのボールの方向をゴールキーパーが予測するときの生成期に知覚的訓練が与える影響について検討した。熟練したゴールキーパーは事前テストの成績に基づいて能力が均一になるように3群に振り分けられた。知覚訓練群(14人)は映像に基づく知覚訓練を受け、プラセボ訓練群(14人)は映像に基づく通常の訓練を受け、統制群は訓練を受けなかった。プラセボ訓練群と統制群と比較して知覚訓練群は、有意に成績が向上した。ただし、フェイントありの7 mスローの予測の成績は、フェイントなしの予測の成績よりも向上しなかった。したがって、ハンドボールのゴールキーパーにとってフェイントありの7 mスローの予測は困難な課題であるが、課題に特化した知覚訓練により成績が向上することが示された。

●文献情報
Alshariji, K. E., & Wade, M. G. (in press). Perceptual training effects on anticipation of direct and deceptive 7-m throws in handball. Journal of Sports Sciences.

以下、ざっくり内容紹介。

  • 今回の研究紹介は少し毛色が違う内容です。ハンドボールのゴールキーパーの7 mスローを止める成績を向上させるための知覚的訓練に関する研究です。おもしろいのはフェイントありの場合とフェイントなしの場合の訓練を分けて検討しているところでした。
  • さて、ハンドボールはマイナーな競技ですので、ルールなんて知らない人が多いことでしょう。。。簡単にイメージするにはバスケットボールとサッカーを足して2で割ると、ハンドボールになるかと思います(暴論)。空中の格闘技と呼ばれることもあり、身体接触が多くかなり激しいスポーツです。その一方で、高い戦略性も求められる奥深い競技です。
  • 細かい内容は置いておいて、ハンドボールには7 mスローといったサッカーで言うPKみたいなものがあります。これはシュートを打つ人とゴールキーパーの一騎打ちです。たぶん映像をみた方が分かりやすいと思いますので、こちらの映像をご覧ください。Youtubeからひっぱってきました。トッププレイヤーによるフェイントありのシュートです。


  • 先行研究からシュートを打つ人のフェイントに惑わされずに正確な方向を予測できれば、7 mスローを止める確率が高まることが報告されています。今回の研究では、この予測を向上させるために知覚的訓練を行うものでした。参加者はクエートのプロとユースチームに所属するゴールキーパーです。アジアではクエートや韓国でハンドボールが盛んです。
  • 実験は、訓練条件(知覚的訓練群・プラセボ訓練群・統制群)を参加者間要因、テスト時期(訓練前・訓練後)とシュート条件(フェイントなし・フェイントあり)を参加者内要因とする3要因計画で実施されています。
  • 知覚的訓練は録画映像を使用していました。プロとユースに所属する人に模擬的な7 mスローを行ってもらい、その映像から訓練用映像56個と試験用映像56個を作成してあります。それぞれフェイントなし28個、フェイントあり28個ずつでした。訓練用の映像は3部構成になっており、(i)ボールが手を離れる33 m秒前までの全身を再生、(ii)ボールが手を離れる前までの上半身のみを通常より25%遅い時間で再生、(iii)シュートを打ち終わるまでの全身(視線手がかりもあり)を再生していました。これらの映像は全てiPadで再生しており、参加者は練習の空き時間などにこの映像を1日に2回見るように教示されていました。
  • ボールが手を離れる33 m秒前に設定されていたのは、先行研究で成績の良いハンドボールのゴールキーパーがこの時間で意思決定をしていたことが報告されているからです(学会発表の内容です。リンクみつからず。。。)。
  • プラセボ訓練は通常の7mスローの映像を見てもらっていました。統制群は何もなしです。
  • 訓練前後のテストでは、スクリーンにシュートを打つ人のボールが手を離れる33 m秒前までの全身を映し、実際に体を動かしてボールの方向を予測させていました。
  • 実験の結果、知覚的訓練群のみ事前テストよりも事後テストの成績があがっていました(図1、図2)。また、知覚的訓練群のみ訓練前後でフェイントありよりもなしのときに正確な判断をしていました(図3)。




図1 フェイントなし条件における訓練条件とテスト時期別の正確性


図2 フェイントあり条件における訓練条件とテスト時期別の正確性


図3 知覚的訓練条件におけるシュート条件とテスト時期別の正確性

  • 以上の結果から、知覚的訓練により7 mスローを止める確率は高まるが、フェイントがある場合の効果はフェイントがない場合の効果よりもやや低いことが示されました。ただし、どちらも訓練後には大きく正確性が向上しているため、このような訓練が有効であることを主張しています。